花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

 脳内にスローモーションで課長に抱き締められる映像が流れる。

「だから待って下さいと言ったのに。目を離すとこれだ」

 溜息が旋毛に落ちてきて擽ったいものの、清潔な香りで肺が満ちていく。課長にくっついたまま男を指差す。

「す、すいません。まさか酔っぱらいに絡まれるとは思わなくて」

「おいおい失礼だな! 人を酔っ払い扱いするなんて! 大体、その男達はなんだよ?」

 男達と複数形で非難した事から課長の他にもう一人居ると把握。その人は課長との包容をまじまじ眺めついて、ばっちり目が合った。

「こりゃあ、たまげた。マジで社内報に載っていた子じゃないか、花森」

 パチパチ瞬き、私を覗き込む。

「そう伝えただろう。これで私を復職させるのは諦めるな?」

「挙げ句、写真で見るよりキレイだし。納得いかねぇ」

「そちらが納得するもしないも知った事じゃない」

 会話内容はよく分からないが、きっと彼が挨拶しようとした元同僚だろう。あまりにも熟視するので軽く会釈をしてみる。

「こんにちは、宮田香ちゃん。オレは花森の上司で友達です。ところで香ちゃん、写真映り悪いね? どう? うちのファンデーション使ってみない?」

 肌の状態を確かめようとする手付きを課長が即座に叩き落とす。

「自己紹介をかねて営業するな! それから気安く香ちゃんとか言うな! あと写真映り悪くない!」

「えぇ! 美人は共有資産じゃない? ケチ」

「ケチで結構だ。彼女に触ってくれるな」

 元上司の方のスーツに社章を見付け、課長の前職が化粧品関連と気付く。どうりで身体のメンテナンスや装飾品への造詣が深い訳だ。

「いつまで僕を無視する!」

 事態に取り残された酔っ払いが怒鳴る。

「あぁ、まだ居たのか? さっさと失せろ!」

 らしからぬ物言いに見上げたら、課長は私には蕩けるような笑顔を降らす。

「あなたはこのまま離れてはいけませんよ。そちらの名刺を見せて下さい」