「その為の新プロジェクトだろう?」

 よっと掛け声を上げて立ち上がり、窓側へ移動。
 宮田香の所属する部署は一旦解体され、再構築される。人員は同メンバーのままだが、これまでルーズになっていた予算面を私がきっちり管理し、新社長直々、業務遂行を確認するのだ。
 これは社運をかけた一大プロジェクト、彼女がリーダーとなりチームを引っ張っていく。

「父さんもそうだが、香やその他の技術者も追い込まれたら強い。イコール尻を叩かねば働かないとも言えるがな。俺達は損な役回り、明みたく甘やかすだけじゃ駄目なんだ」

 部署解体の噂を否定せず、技術者にリストラという言葉を過ぎらせ危機感を煽る。現場の士気を底まで落としてから、宮田香を中心とした団結を促す。
 そう、全ては副社長のシナリオ通り。

「明さんーーマスターですか?」 

「そうだ。あぁ、明から香にカレーを食べに来るよう連絡が来てたな。仕事あがりにバーへ寄ったらいい。奴のカレーは絶品だぞ」

「遠慮します」

 即答する。

「遅い時間から消化に悪い食事は避けるべきです。それとカレーは今朝召し上がりました。栄養バランスを考えれば同じメニューを食べない方がいいです」

「花森が作ったのか? 興味がある。俺にも手料理を食わせてくれない?」

「嫌です」

 即答した。

「仕事面では厳しく監督しますが、プライベートな時間でのケアは怠りません。マスターに甘えなくとも私に甘えたらいいんです。私は副社長と違い、締める所は締め、そうでない所のメリハリをつけます」

「……いやはや、本当に香は厄介な男に好かれたな。分かったよ、明には俺から言っとく」

「宜しくお願いします。ついでに香りさんへの不用意な連絡も控えて頂くよう、お伝え下さい」

「こりゃあ金庫番ならぬ、香の番犬だな。頼もしい限りだよーー花森部長」

 私の肩を叩き、副社長が退出する。