付き合えそうかと好奇心で探られ、私もコーヒーを含む。

「香さんは私がヘッドハンティングされたと勘違いしています。政略結婚だとも言われました」

「そう映っても仕方ない。花森ほどの経歴の持ち主ならば、うちでなくとも引き入れたい企業は多い。香に一目惚れしたので入社したいなんてさ、耳を疑った。こんなロマンチックな志望動機、聞いた事が無いから」

 副社長の戸惑いはさもありなん。

「どうしても彼女との接点がどうやっても作れなかった、香さんは公の場に出てこないので。もちろん、宮田工業の将来性を感じたからこその決断ですが……」

「おや、俺の妹はいざ目の前にすると思ったのと違ったかい?」

「……いいえ、可愛い人ですよ、本当に。憎たらしいくらい」

 本心がこぼれた。負けず嫌いで臆病な彼女を支えたい。この献身的な気持ちに名前を付けるなら、やはり『恋』しかないだろう。他人には分かりにくく理解しがたくてもいい。

「はは、ロマンチストは訂正しよう。香も怖い男に惚れられたものだ」

「とか言いつつ、会社の為ならば妹を差し出すのでしょう? 怖いのはどちらです?」

「本当に危険な奴に香を任せたりしないだろ。俺は父や妹みたいな才能はないが、その代わりに人を見る目はあるんだぜ!」

 語尾にウィンクを添えた。兄妹は顔立ちが良く似ており、特に目元。強い光を宿し引き込まれそうになる。

 副社長が軽口を叩くだけでなく、時に非情な決断をすることは有名。この若さで宮田工業の舵取りを担うのに相応な知識と経験を兼ね備え、かつ自信に満ちている。

 まさに経営者向きといえよう。こんな兄が側にいたら宮田香の性格形成に影響を与えるはずだ。

「副社長のお眼鏡にかなおうと、香さんに気に入って貰わなくては意味がありません」