花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?



「疲れた。出勤前からヘトヘトなんですけど?」

「ですが、良い買い物が出来たじゃないですか。昼食はどうします? 会社に着く前に軽く召し上がりますか?」

「課長がお弁当を持たせてくれたので、会社で食べます。途中で降ろして下さい」

「別に一緒に出社してもいいのでは? 帰りも同じ家へ帰るのですし」

 助手席で頬杖つき、窓ガラスを曇らす。私服にドレス、何故か靴やバッグまで課長は買ってくれた。全く、金庫番の財布の紐がゆるすぎる。

「こういうのパパ活みたいで気まずいです」

「……援助交際していたんです?」

「してませんよ! みたいで、と言いました!」

「これは投資ですから気にしないで下さい」

「はっ、それは未来の自分への?」

 政略結婚が成就したあかつきには地位と名誉が手に入る算段か。先行投資額としては悪くはないと脳内の計算機を弾いたかもしれない。

「いいえ、二人の未来にです。さて、この当たりでいいでしょう」

 静かに停車する。課長は先に降りて私のドアを開けようとしたので、腕を掴み制止。

「お嬢様扱いはやめて。自分で降りられます」

 グッと指に力をいれ、食い込ませた。

「扱いも何も、あなたは名実ともにお嬢様。それに私にとって女性をエスコートするのは特別な事じゃない、当たり前です」

「へぇ、歴代の彼女達にも高級品を沢山プレゼントしたり、お弁当を作ってあげたんですか? 流石、おモテになる人は違いますねぇ〜」

「それは嫉妬?」

 課長が掴んだ上に重ねてくる。それを急いで払い、首を横に動かす。

「な、なんで、私が? 課長に、そんな」

「良い意味でも悪い意味でも、こんなにお世話する女性は初めてですよ」

 言うと身体を伸ばして助手席のドアを開けた。ふわり、甘い香りが鼻先を掠め、ドキドキしてしまう。

「……」

 動揺を気取られぬよう無言で下車した。

 課長は軽く手を上げ、去っていく。