「お待たせー」

海都の呼び出しにより、玄関のドアを開く。

「こんにちは凛花ちゃん。お店の手伝いとかあったかな?」

「いや、それは問題ないよ! さっきお母さんに伝えといたから」

お母さんは快く、いってらっしゃい! と言ってくれたので、「三日月うさぎ」のエプロンは外している。

髪だけは間に合わなかったから、下ろしたままだけど。

「ところで、この紙袋はなに?」

「ふふっ。これ、プレゼント」

ワクワクしたような笑みを浮かべながら、両手で紙袋を渡してくる海都。

袋は真っ白で、持ち手にはピンク色のリボンが飾られている。

「プレゼント? ……ああっ!」

すっかり忘れていた。

明日、わたしは十五歳の誕生日だ‼︎

「ほらー! やっぱり忘れてた!」

「ご、ごめん。えー! 嬉しい、ありがとう!」

大声を上げながらあきれる海都に申し訳なくて、ついあやまってしまった。

「当日は明日だけど、ほら、体育祭あるからさ。渡す時間ないかもしれないじゃん?」

「そっか……。これ、開けてもいい?」

「もちろん」

かわいくラッピングされたパステルグリーンのメッシュの袋を取り出す。

金色のリボンをひっぱると……。

「ブレスレッド?」

黒い紐が二重の輪っかになっていて、白や金や水色のビーズがたくさんついている。

華奢でかわいらしくて、日常で使えそうなデザインだ。

これ、見たことあるかも。

「『エスニックビーズロープブレスレッド』って言うんだって。僕が選んだんだよ」

「え、そうなの?」

「凛花ちゃん、いつも腕時計してるでしょ? だから一緒につけたら綺麗だろうなあって」

えへへとはにかむ海都の顔が、くもり空の今日は太陽のように明るく見えた。

わたしが腕時計してるの、気づいてたんだ。

心がじーんとする。

「……海都って、センスいいよね……」

「本当っ⁉︎ 凛花ちゃんに言ってもらえるのは嬉しいなあ」

「もう感動だよ……! こんなにオシャレな誕生日プレゼント、嬉しいに決まってるじゃん‼︎」

うるうるする瞳で海都に熱弁する。

腕時計をしている左腕に、ブレスレッドをはめた。

「うん、やっぱり似合ってる!」

コクコクうなずきながら、海都が胸の前でこぶしを作る。

「——海都の恋人になる人は、絶対幸せにしてもらえるね」

ブレスレッドをなでながら、冗談のつもりで言ったんだけど。

海都の返事が聞こえなくて、ふっと顔を上げた。

そしたら海都の顔が、りんごみたいに赤くなってたんだ。

「海都? どうかしたの?」

「う、ううん! なんでもっ、なんでもない! よ……」

「ほ、本当に? 顔赤いけど……」

「へっ⁉︎」

「……ふふっ、あはは!」

両手をほっぺたに当てる海都が、なんだかおかしくて。

玄関にわたしの笑い声が響きわたる。

「ちょ、ちょっと、そんなに笑わないでよ! 凛花ちゃんってば!」

「はー、ごめんごめん。なんか、今の海都かわいくって」

「ええ〜……」

海都が不満そうに唇をとがらす。

そんな表情すら、かわいく見えちゃうな。

「ねえ。凛花ちゃん」

どこか真面目な口調だった。

真っ赤だった頬は桜色になって、少しうつむいていて。

「ん? わっ」

返事をしたとたん、海都がわたしの左手首をつかんで、ずいっと顔を近づけてきたんだ。

びっくりして一歩後ずさると、海都も一歩近づいてくる。

きめ細かい肌は女の子よりも綺麗で、わたしを見つめる瞳には星のような光が散りばめられている。

どきりと、心臓が大きな音を鳴らした。

それが連続して、夏祭りの太鼓のように体じゅうがビリビリする。

(ち、近い……‼︎)

「凛花ちゃん」

さっきの「凛花ちゃん」とは、ぜんぜん違った。

いつもよりも低くて、しっとりとした大人っぽい声。

そらそうとした視線が、その数秒で海都の瞳に釘づけになってしまった。

「僕って、そんなにかわいい?」

……かわいいことを自覚してる女の子が言ったら、嫌味にしか聞こえないだろう。

でも、目の前にいる花が咲いたように微笑む男の子が言うと、どうしてこんなにかっこよく見えるの?

「え、っと……」

どうしよう。なんて答えればいい?

口が思うように動かない。

そんなわたしを見てなにを思ったのか、海都はつかんでいた手を離して、私から一歩距離をとる。

どこかいたずらっぽく、上目づかいで微笑みながら、海都は言った。

「凛花ちゃん。よかったら、ちょっと散歩しない?」