わたし、安藤凛花(あんどう りんか)はティーカップを拭きながら、考えるそぶりをしつつ、あらかじめ決めておいた回答を言う。

「どんなって……。お隣さん、でしょ」

「凛花ちゃんって、いつもそれしか言わないなあ」

 白地にカラフルな絵の具の柄がたくさんついたパーカーを着た男の子が、無邪気に言う。

カウンター席でわたしの目の前に座り、ころころと笑う彼は、佐々倉海都(ささくら うみと)

わたしの両親が経営しているカフェ「三日月うさぎ」に、週四回はやってくる常連さん。

 そしてさっき言った通り、お隣さんでもある。

「三日月うさぎ」の真隣にある美容室「fu-rin 」の一人息子で、わたしが行く美容室はもっぱらそこだ。

 ちなみに、わたしは中学生だからアルバイトはできないけど、お手伝いとして放課後はいつもカウンターに立っているんだ。

 部活には所属していなくて、小学三年生くらいから手伝っている。

「三日月うさぎ」ではアルバイトさんを雇っていないのもあるけれど、わたしがやりたいからっていうのが一番大きい理由。

 海都は中学三年生で、わたしと同い年。

中学校は違う。

 幼稚園と小学校は同じだったらしいけど、幼稚園の頃の記憶はあんまりない。

 小学校は規模が大きくて、一度も同じクラスにならなかった。

 よく会話するけれど、お隣さんと常連以外の接点はゼロに等しい。

にも関わらず、わたしの通っている中学校の先生の名前を知っているから、謎の怖さを感じる。

なお、知っている理由は、わたしと同じ学校に通っている友達から聞いたから、らしい。

実家の職業柄か、お客さんから噂を聞いたり、顔見知りがたくさんいるみたい。

いろんなところに知り合いがいるんだなあと、海都の話を聞くたび思う。

まあ、海都本人のコミュ力も影響しているとは思うけどね。

海都の人懐っこい子犬みたいな性格は、老若男女だれとでも仲良くなれる。

 カフェで接客業の手伝いをしているわたしとしても、そのコミュ力は見習いたいところだ。

 海都は服装もオシャレに着こなしているし、ヘアスタイルも、ふわっとした茶髪は綺麗に手入れされている。

 顔立ちもわりと、というか、かなり整っている。

あどけない性格と相まって、女子人気はかなりある。

 いや、彼に関しては男子人気も高いタイプだ。

 カフェで長年お手伝いをしてきたわたしの勘。

 カフェはその人の人間性が出やすい場所だと、両親がよく言っているから、人を分析する能力が自然とついた。

海都に関しては、幼い頃から接してきた経験もあると思うけれど。