「凛花ちゃん」

海都が悩むようにうつむいていた顔をぱっと上げた。

勢いで目が合って、ドキッとする。

「今まで言えなかったけど、ちゃんと伝えるね」

海都は真剣な眼差しで、まっすぐに宣言した。

「僕、ずっと、」

先の言葉を待つけれど、なかなか聞こえてこない。

「海都……?」

「ごめん。こんな状態で言うことかなあって思っちゃって。情けないなあ……」

こんなにも弱々しくて、不安そうな海都は、見たことがない。

力がゆるく抜けた海都の手のひらを、わたしからにぎり直した。

下を向いていた海都と、また視線がぶつかった。

「……大丈夫。なんでも言ってよ」

海都がもう一度、わたしを上から抱きしめる。

今度は驚かなかった。

わたしも、海都の背中に両腕をまわして、ぎゅっとする。

しばらくの沈黙のあと。



「ずっと、凛花ちゃんのことが好きだったんだ」



顔を見られなくてよかったって思った。

だって、きっと真っ赤になってるから。

高ぶっていく感情を静かにさせようと思っていたけれど、どうやら難しいみたいだ。

顔に、出てしまう。

「うん」

「ただの常連でもお隣さんでもなくて、恋人になってほしいんだけど、だめ?」

ひと息に話した声がどこか苦しそうだったのは、緊張してる、から?

海都の気持ちを、真摯に、ちゃんと受けとめてあげなきゃって思った。



「……ううん。だめじゃないよ」



初めて、告白っていうのをされた。

しかも相手は、人生のほとんどを一緒に生きてきた幼なじみ。

想いに対する緊張が、心臓に、声に、指先にめぐっていく。

「じゃあさ」

海都がわたしの首から腕をはずして、膝立ちになった。

目線が同じ高さになる。

至近距離に見える熱っぽい瞳が、炎のようにゆらりと動いた気がした。

「僕たちってどんな関係?」

何度も聞いてきた質問。

わたしの返答は、今日、海都によって変えられた。

「……恋人同士、でしょ」

消えいりそうなくらい小さな声になっちゃったけど、それでもはっきり伝えたかった。

「本当にそうなんだよね?」

「嘘の返事なんてしないよ」

間髪入れずに疑われちゃって、なぜか安堵の笑みがこぼれた。

「ああー……!」

海都は幸せそうな声を上げて、そのままぺたんと床に座ってしまった。