「舐めた?」

 艶めくその瞳に、否定も肯定もしない。
 抵抗出来ないかわりに、彼の手をべろりとと舐めた。それが彼に伝わったらしい。

「……へえ」

 なにを考えているのかわからないその顔は、ようやく口元の手をどかしてくれたかと思えば、

「——っ!」

 あろうことか、わたしになめられた場所を、同じようにべろと舌でなぞった。
 まるで挑発するようなその顔に、ぞくりと麻酔のような得体のしれない快感が襲う。

「なんかこれ、キスするよりすごいことしてんだろうね」

 皮膚のふれあいを通り越して、唾液をかわすなんて、そんなのあまりにも濃厚すぎて、追いついていけない。
 
「まあ、おわらないけど」

 そう言って、勢いよくわたしの後頭部を掴んでは引き寄せると、そのままわたしの耳たぶに歯形を当てた。

「いっ……」
「痛い? もっとあげようか?」
「っ……い、いい、もう」

 指といい、今度は耳まで噛まれた。この人の噛み癖はほんとうに厄介だ。
 厄介なのに——この人に見つめられると、その痛みにさえ酔ってしまいそうで。
 心が、頭が、陶酔していくような気分にこわくなる。深みにはまっていくようで、どこまでもわたしの心をずるずると引きずって。

「浮気すんなよ」

 そんな甘く痺れるような音から、わたしは逃げられない。