一足早く向かう彼女の背中を見つめながら踏み出すと、不意に手首を掴まれる。
 見上げれば、太陽の光を十分に受けた綺麗な髪が映って、

「嫉妬しすぎ」
「……っ」
 あれだけ浮かべていた笑みがごっそりと消えていて、息を呑んだ。
 親しみやすそうで、にこにこしていて、雰囲気が柔らかくて。
 それが、あくまでも仕事としての顔だということを、つい忘れてしまっていたみたいだ。

「下手くそだったよ、笑ってんの」

 すこしだけ冷たいような眼差し。けれど、それは見下しているような色じゃなくて、普段の、彼が本来持つような冷静さと落ち着きがあるもので。
 その目があんまりにも綺麗だから、いつもいつも、見透かされて、吸い込まれてしまいそうになる。

「……うるさい」
「そんなに妬いた?」
「妬いてない」
「うそ」
「そっちだって」
「なにが?」
「うそばっかじゃん、あんなキャラ」

 へらへらと、話しやすいような、そんなオーラ。ぜんぶ、作り物のくせに。

「ああ、じゃあ、俺らうそつき同士だ」
「みんなそうだよ」
「そうだね、でもさ——」

 ぐっと、近づいた彼の整った顔に目を奪われる。