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「リョウ、おはよ」
「はぁーおはようございます」

 眠気マックスでマネージャーが運転する車に乗り込めば、先に乗っていたナギがいつもの特等席に座っていた。
 一番後ろの窓際を陣取るものだから、自然とあそこがナギの席になってしまった。ほんとうは俺もあそこに座ってみたい、と思うのは自分のキャラではないので控えている。
 ナギの耳には白いイヤフォンがさされていたが、瞼は落ちている。音楽を聞きながら寝落ちでもしたのか。
 車が静かに走り出す。別のメンバーを順に迎えにいく道中で、俺が一番最後だったら、もうすこし寝れていたなと窓の外を見て思っていた。

 新曲のダンスレッスンがこんな夜中にあるというのは、なかなかにきついものがある。

 俺は半日オフだったけれど、ナギはついさっきまでラジオの収録があったのだから、ほとんど睡眠をとることも出来ないままだ。
 それでも売れっ子になってしまうとそんなものなのだろう。ろくに寝れないからと言って、スケジュールがなくなるわけではない。
 ナギの前の席に座ると、うっすらと人の歌声が聞こえた。基本誰かの歌を聞いたりしないくせに、珍しく音楽を嗜んでいるらしい。
 それにしても、ナギがしてるイヤフォンって音漏れしないやつじゃなかったっけ?

 ……かなり爆音で聞いてることになるな。

 なんとなく聞こえてくるその歌声に耳を傾けながら、配信アプリをひらく。
 このまえ、センがふざけて配信していたのをきっかけに、見るようになってしまった。
 事務所では禁止になってるくせに「顔出さなければいけるって」と自信しかない様子だった。あれはもう常習犯だ。
 それを隣で見て、まんまと気になっているのだから、やられた感はあるけれど。
 ふと、視聴数が一番高い動画の画像が気になった。
 顔出しを一切していないにも関わらず、ここまで視聴されている理由が知りたくなる。夜中だから卑猥なものかもしれないなと、イヤフォンに切り替えようとしたとき——

「〝愛してた それはもう過去になってしまったけど〜〟」

 透き通った声が響き渡り、思わず心臓を奪われ驚いた。
 その驚きは、単に声が綺麗だったからじゃない。