「いっ……」
がりっと、噛まれた箇所に痛みが走る。人差し指を掬われ、そのまま唇に持っていかれるのを、黙ってみていたわたしが悪いかもしれないけれど。
「あ、歯形ついた」
「……っ、な、なんで噛むの?」
「なんで?」
んーと、考える素振りですら絵になってしまうなんて、ほんとうに罪深い。
「なんでだろ」
「答えになってないよ……」
「俺も知りたい」
無責任だ。いきなり噛むなんて、猫じゃないんだから。
……わたしなんかより、よっぽどこの人の方が猫じゃないか。
「……明日も撮影」
「なら好都合」
彼に近付けば近付くほど、のぞかれているような気分になる。全てを見透かされているような錯覚になって――
「消えるかな……」
「頑張って隠したら?」
「隠せないよ……隠すけど」
既成事実なんて、とんでもないワードを出しておいて、その答えが噛み後なんてずるい。
そんなわたしの不服を見透かしたのか、くすりと笑った端正な顔。