来栖凪は、時折笑顔を見せながらも、メンバーの話の邪魔にならない程度に相槌を打っている。
 わたしの前でも、こうしてゆるっとした雰囲気を見せてくれたらいいのに。

 ちらりと、ベッド脇にかけてある黒いパーカーへと視線が流れる。
 来栖凪に借りたパーカーは、とてもお高そうで、かなり慎重に洗濯をした。慎重にと言っても、洗濯機に頼ったけれど。

 でも、ネットにいれてとか、柔軟剤は使っていいのかとか、おしゃれ洗濯コースなのかとか、いろいろ調べていれば、スタートボタンを押すまでに1時間経ってしまったのだから疲れた。

(いつ返せるんだろうか……)

 来栖凪の連絡先は知らない。返すタイミングは偶然会えたときぐらい。
 でも、そんな偶然なんて、簡単には降ってきたりしない。
 返したい気持ちはある。念入りにアイロンもかけた。だからもう返すだけなのだけど、

『じゃあナギはどう? 元気になれる話とかある?』

 頭脳派のリョウが、ナギに話を振ったことで慌ててスマホの画面に戻る。
 相変わらず整った顔をしている彼は、今日も今日とて金髪がよく似合っている。

『俺? 俺かあー』

 んーと考える素振りを見せる彼を見て、コメント欄を眺めていく。
 ナギに話題が振られたとのことで、ナギへのコメントが勢いよく下から上へと流れては消えていく。
 ……すこしだけ、その中に紛れてみたいと思った。
 コメント欄に文字を打ち込む。このまま送ろうか、やっぱやめようか、一瞬葛藤があった末に、思い切って画面をタップした。

〝kokoro こんにちは〟 

 ぽんと、自分のコメントが一瞬表示されて、途端に恥ずかしくなった。
 なんだか、いざこうして流れてしまうと恥ずかしいものなんだなと、すぐに消えてしまったコメントを見て思っていると、

『こんにちは』

 あの透き通った声が、ふわりと鼓膜を突き刺し撫でていく。

「え……」

 画面の向こうの来栖凪は、どうやら流れていくコメントを見ていたようで、それに反応したようで。

『ちょ、こんにちはのタイミング今!?』
『さっきこんにちはってしたよ~』

 メンバーに散々突っ込まれ「あ、そっか」と笑うその顔に、心臓がどきどきと音を立てた。

(もしかして……コメント拾ってくれた?)