桜井うたの撮影が終わり、いざ自分たちの撮影場所へと案内されている中で、窓の向こうに人だかりが見えた。

 うちのスタッフではない限り、桜井うたのスタッフなのだろう。
 次々と車に乗り込んでいく中で、透明な傘に入った小柄な女の子へと視線がいく。
 スーツを着用した女性が、その女の子に傘をさしているところを見る限り、あれは桜井うたなのだろう。
 しかし、ついさっき見た過激な姿よりも、かなりボーイッシュな服装している。

 黒のだぼっとしたパーカーは男性ものだろうか。

(え……男性もの?)

 ふと、そのパーカーのロゴが見えたとき、目を疑った。

『ナギが着てるあのパーカー、日本では入手困難だって。日本人でも数人しか持ってないらしいぞ』

 以前センに聞かされた話を思い出しては、もう一度彼女へと視線を戻す。
 車に乗り込む直前、もう一度そのロゴを確認しようと目を凝らしたが、視界の悪さも相まって見逃してしまった。

(あの子も同じのを持ってたとか……? いや、どう考えてもあれはナギのパーカーじゃ……)

『猫がいたから、あげた』

 ナギが口にした猫とは、あの子のことだったんだろうか。
 そうだとしたら、やっぱりふたりには接点がある?

 そもそも、自分の所有物を触られたくないからと、コンサートでは絶対に私物を持ち込まないあのナギが、お気に入りのパーカーを渡すなんてことが未だに信じられない。

(しかも着せちゃってるし……)

 興味がないと言っていたが、やはりどう考えても、桜井うたとはなにかあるような気がする。
 そうだとしたら、――それは、すこし、いや、かなり、困りものだ。