「あ、今日のうたちゃんのお尻、さいっこうだねえ」
「わあ、ありがとうございますう、マッサージの効果かもしれないですね」

 無数にたかれるフラッシュの前で、貼り慣れた顔をべったりとくっつける。
 カメラマンの男性は、「どんなマッサージしてるの?」と、そのレンズの奥でニタニタと笑っていた。

「あ、これは男子禁制なんですよ、女の子だけに今度教えたいって思ってて」
「いいねえ、じゃあ今度雑誌の特集は、うたちゃんで決まりだね」
「ほんとうですか?! うれしい、参考にしてもらえるかなあ」
「するよ、今やうたちゃん、男だけじゃなくて女の子も虜にしてるんだから、絶対好評だよ」

 ポーズも、表情も、仕草も、ぜんぶ頭に叩きこんである。
 角度だって、自分を魅せる顔も、魅せたい顔も、なにを求められているのかも、応えていくのがわたしの仕事で、それらは大半、男の夜のおともに使われていく。

「好評だったら、ぜひ連載にしてください」
「したいね、俺からも企画通してもらうようにするから」

 さりげなく仕事にこじつけるのだって、塩梅が必要だ。喰いつきすぎてもいけないし、かと言って謙遜してたら、仕事は自然と消えていく。
 だから、言い方ひとつ、すべて〝桜井うた〟として完璧になれるよう心掛ける。
 ここに立つまでに死ぬほど努力した。勉強もして、ダイエットもして、それでもライバルはごまんといる。そんな世界にわたしは今、立っている。