「うたちゃん入りまーす」

 あれから急いで撮影現場に戻って怒涛の撮影タイムだった。
 十五着の衣装(ほとんの布の面積が少ない)撮影は、こっちも、そしてスタッフも戦いだった。
 時間との勝負だし、長丁場になればなるほど、体力を消耗していく。

「いいねえ、もうちょっと胸を突き出してみようか。あ、手の位置はそのままで」

 カメラマンだって、別に堀口さんのような変態ばかりじゃない。むしろ堀口さんのようなタイプは珍しかったりする。
 ほとんどの人は仕事に真摯だし、意外と女性スタッフも多い。着替えのときなんかは、どれだけ助けてもらってるか。

 制服を着て、あえて下着を見せるようなポージングだって恥じらいはなくなった。

 すこしづつ脱いで、ブラとショーツだけになっても、周りはわたしを仕事として見ている。
 中には興奮してくれてる人もいるかもしれないけど――

「……っ」

 撮影中、流れている曲がmeteorの新曲になって、意識が削がれた。
 女に翻弄される男というテーマで、歌詞も「待てない」とか「のぞかせてよ」とか、そんな言葉が多く使われている。
 
「〝こっち向けよ なんて、俺が言ったら振り向いてくれる?〟」

 彼のソロパートが流れ、フラッシュがたかれる中で平常心を保つことに必死。
 あまりにも透き通ったその歌声は、意識しなくても耳に入ってきてしまう。

(ああ……どうしてこんなときでも支配されてしまうんだろう)

 仕事としての表情を浮かべながら、頭の中では彼の顔や行動を思い出してしまって。