いないどころか、それ以降、一切彼女を見かけなくなり、あの歌声が路上で響くことはもうなくなってしまった。

 おどろくほど透明で、まっすぐ心を貫いていく声だったのに。

 悲しいという感情に襲われることは滅多になかったが、このときばかりはさすがに落ち込んだ。
 もう会えないかもしれないと思っていた中で、まさかあんな形で再会するとは思ってもいなかった。

 久しぶりに会った彼女は、ギターをかきならしていたんじゃなくて、歌を歌っていたわけでもなくて、あろうことか水着姿で俺の前に姿を現した。

『――あれ、ギターは?』

 そう喉から出すので精一杯で、冷静さなんてぶちんと大きく音を立てなくなっていた。
 それでも冷静を務めた。そのフリを続けた俺に、彼女は後ろめたさをはっきりと浮かべ言葉を濁す。「えっと……」と、口を動かした彼女を、衝動的に抱きしめてしまいそうだった。

 久しぶりに会えた。その嬉しさと、久しぶりの恰好が刺激的だったのと、それから、

「今はグラビアをやってて……」

 ──怒り。

 彼女に対する怒りなんかじゃなくて、こんな未来を歩いてきた自分に腹が立った。
 なんで、と繰り返されるその言葉を、せめて彼女にぶつけないでいられるだけよかった。
 でも、油断すると全てをぶち壊してしまいたい衝動に駆られる。