ぷつり、それらを遮るように、耳から引っこ抜いたイヤホンを、専用のケースにしまった。無線に切り替えてから、コードが絡まることはなくなったけれど、度々紛失するようになってしまったのは誤算だ。小さいから無くしやすい。

 だからすぐにケースにしまうし、それからすぐにかばんの中にしまう。

(うそばっかだなあ……)

 はは、と、こぼれていく乾いた笑み。
 わざとらしい、でもそのわざとらしさに救われている人がたくさんいるのだと思うと、わたしはなにを届けられているのだろうかと思ってしまう。

「うたちゃーん、撮影入るけど大丈夫?」

 スタッフさんが慌ただしく入ってきて、すぐにスイッチを切り替える。ころり、さっき浮かべた笑みとは別のものを作りだして、

「はあーい、今行きます」

 グラビアアイドルである〝桜井うた〟のモードに入る。

 スタジオに入る前に、ふと、さっきの声が頭の中を支配するように再生されて、それらを振り払うように「おねがいしまーす」とワントーン高い声を出した。

(イヤホンで聞くのはもうやめよ)

 鼓膜に直接響くみたいで、与えられた言葉が全部、植え付けられていくみたいで不快。
 聞かないようにしていたのに、無意識にスタンバイして、ラジオが始まる直前にはイヤホンを装着していたのだから恐ろしい。