『……もう、いかなきゃ』

 振り払わないと、撮影に戻らないと、そう思うのに、振り払えなくて。

『だめ』
『……っ』
『約束してよ、俺と』

 きっと、わたしはこの音に溶かされてしまったのだと思う。心も、身体も。
 
『じゃないと、たぶん、このまま戻らせてあげられなくなる』

 奥が疼くような声を出さないでほしい。そんな言葉を与えないでほしい。

 ――なら、約束なんて、しないのに。

 戻らせてほしくなんかないのに。
 このまま、この人の腕の中で、温もりに酔いしれていられたらいいのに。

『約束、できる?』

 のぞきこまれたその顔が、ほんとうに綺麗で、直視出来なかった。
 こんなにも綺麗な人だったんだ。こんなにも破壊力があったんだ。
 そんな人に今――抱きしめられているのか。

『……約束する』
『よろしい』
『……っ』

 にこり、笑った顔に、もう限界だった。
 ――この人にハマったらだめだ。
 そう頭では分かっているのに、ちゃんと分かっていたのに、

(ああ、だめだ……落ちていく)

 彼に落ちていくのが分かった。もう戻れないと分かった。
 この人が全てになってしまうと、本能が囁いていた。