「そうですか? そう言ってもらえると光栄です」
「もうこのままグラドルも引退しちゃったらいいじゃないですかぁ」

 語尾は可愛らしいが、その言葉の裏に隠された意味を考えると面倒になる。
 
「んーどうですかね」
「だって、桜井さんってグラビアの仕事きらいですよね」
「……ん?」
「だって、ぜんぜん楽しそうじゃないですもん。なんかイヤイヤ仕事してます~みたいなオーラが伝わってきちゃって」
「……そうですかね、仕事は全力でしてますけど」
「えーだって、本気じゃないですか。わたしと違って。見下してる感があるっていうか」

 見下してる?わたしが?
 首を傾げるしか出来なかった。
 リョウに見下されて腹が立ったのに、わたしは見下しているように見えるの?

「なのに売上だけは伸ばすからどんどん地位確立しちゃって。それって本気で頑張ってる人を馬鹿にしてるのと一緒ですよね?」

 笑顔が、また、崩れていく。

「本気でやらなくてもわたしは売上出せますよ、みたいな。表紙だってバンバン飾れちゃいますよ、みたいな。それって、わたしたちから見るとすごい嫌っていうか。仕事嫌いなくせに、そうやって仕事もらえて、お金もらって、女優までして。グラビアの仕事なんだと思ってるんですか?」

 可愛らしい語尾が、次第に消えていっていた。
 彼女の笑顔もまた、崩れていくのを見つめながら、口を噤むしかなかったのは、恥ずかしい話、図星だったからだ。

 グラビアの仕事は好きになれなかった。たしかにイヤイヤだったのかもしれない。
 やめたいと思うことは何度だってあったし、でもお金のこととか、生活費のこととか考えたら今更やめるわけにはいかなくて。

「ドラマ出て、そしたらナギにも手を出そうとしてるじゃないですか」
「……っ」
「一部ですけど、そういう話も出てますよ。体でも使ってナギに取り入ろうとしたんですか? それって最低ですよね。グラビアの仕事なんだと思ってるんですか?」
「……」
「いいですよね、それで相手してもらえれば。まあ、ナギはあなたに興味がないみたいですけど」
「……え?」
「言ってましたよ、正直すごい迷惑だったって。あなたに言い寄られてて困ってたって。共演出来たからって調子のってるってわたしに話してくれました」

 来栖凪が……? わたしを迷惑?
 佐原まなみのヒートアップに周囲もざわざわと集まり出す。野次馬が興味本位で話を聞こうとするけれど、それに構っていられるほど余裕がなかった。