「別にどうこうなるって話じゃないんです。この前、来栖凪のマネージャーからもあんまり近づくな~ってやんわり注意されてしまいましたし。やっぱり、桜井うたとなにかあると、多くの人を困らせてしまうんですよね。嘘でも、グラビアアイドルとの熱愛が囁かれたら、ファンの人たちって悲しむじゃないですか。アイドルってやっぱりみんなのアイドルでいなきゃならないし。イメージって大切だから。うん、まあそんなところです」

 視線を彼に戻すと、彼は悲しそうにわたしを見つめていて、自分の頬に違和感を覚えた。

「……そんな、無理して笑わないでくださいよ」

 静かで、消えてしまいそうな声。すっと、口角が下がっていってしまう。

「……グラビアアイドルだから、なんなんですか。グラビアアイドルってすごいじゃないですか。まじで尊敬じゃないですか」

 黒い髪がさらりと靡く。風でゆれた彼の前髪、それから、すぐ下にある切れ長の目。

「俺、桜井さんの写真好きです。元気もらえるっていうか……。だから、その話がしたいって思ってて。でも……」

 言い淀んだその言葉の先を、わたしは聞いてしまってよかったのだろうか。

「片思いだったらいいんです。でも、その片思いで傷ついてる桜井さんは見たくないです。そんな泣いてしまいそうな顔で笑ってほしくないです」

 偽りのないようなまっすぐな言葉。

「グラビアアイドルの仕事、俺まじですごいって思ってます。桜井さんが好きな人、日本中にいるのに。人を傷つける仕事じゃないのに、どうしてそんな偏見を持たれないといけないんですか。もし熱愛が報道されても、傷つくのはどう考えても桜井さんじゃないですか。おかしいですよそんなの。そんなの絶対に──」

 風がうるさい。ざわざわと。いや、違う、心だ。心の中がすごくうるさい。