あなたの隣で

朝ごはんのクロワッサンをくわえながら、ボサボサの髪で斗真のところに行く。


「ごめっ、遅くなった…!」


「ばーか、いつもだろ。」


そんな事を言いながら斗真は、私のボサボサな髪の毛を整えてくれる。


優しいでしょ?


こんなの、カップルでしかやらないでしょ?


でも、こんなに優しくしてくれる斗真の理由は、決して私が好きだからじゃない。


「大丈夫だよ…片目が見えないだけで髪の毛くらい整えるよ。」


「だけとか言うな…」



そう。


私の片目は、中学3年生の冬。


右だけ世界が真っ暗になった。


それは、斗真家と私の家族でキャンプをしに行った時のこと。


近くに川があって…。


「斗真っ!!どっちが早いか競走しようよ!」


「えー、水着持ってきてんの?」


「あたぼーよ!!なんならもう着てる!」


「ははっ、俺もなんだけどね!じゃあ、あの石からここの石まで泳ご。」


「わかった!!」


川の流れだって、ひとつもなかったし。


深さだって、全然足がつく。


周りには、私たちより小さい子が普通に泳いでたし…誰もが大丈夫な場所だって思ってた。


それに私も斗真も、県大会に出るほど泳ぐことには自信があった。


なのにその日、勝負をしている最中に大きな岩に足を思いっきりぶつけて…体中の力が抜けた。


その時、はじめて人生で溺れた。


ゴー…と鳴る、水の音。


足は動かなくて、声も出せない。


あぁ、死ぬんだ。


そう思ってた。


でも、私を助けるかのように大きくて真っ直ぐに伸びてくる手。


慌てて助けようとしてくれた為に、その手は思いっきり私の右目に入った。


その時、何とか私は斗真が助けてくれたおかげで、命は助かることが出来た。


私はそれだけで、十分だった。


でも、片目が見えなくなったことで…私の水泳人生はその時に終わった。


片目が見えなくたって、泳げる。


最初はそう思ってた。


でも、真っ直ぐ泳ぐ事が難しくなった。


真っ直ぐ泳げなくて、試合でもポールに当たって失格になったり…同じレーンで泳いでいる人に迷惑をかけたり。


私は挫折した。


全部は自分のせい。



勝負をしようと言ったのも私。


岩に足をぶつけ、捻挫して溺れたのも私。


勝手に挫折したのだって私。


全部全部自分のせい。


なのに、斗真は自分のせいだって思ってる。