絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする

職場で会う冬上さんは、やっぱり冬上さんで、一緒に過ごした時に見た姿は全部私の幻なのかと思ってしまいそうになる。


冬上さんは完璧だから常に周りの人間も緊張感を強いられる。交渉して契約を締結したり、価格交渉をしたりする冬上さんのために、私は図面や価格表などを準備したり納期の調整や発注をかけたりする。資料の数字が少しでも違っていたりしたら、相手側からすれば交渉する冬上さんのミスになってしまうから責任重大だ。


でも反面、こうして近くで仕事を一緒にしてみると遠くからしか知ることのなかった一面が見えてきた。人に厳しい分、冬上さんは誰よりも働いている。仕事が早い分、請け負う量も必然的に増えて一番多い契約を抱えてる。そして愚痴や文句を一つもこぼさない。


絶対零度と言われるけど、やっぱり違う。だって冬上さんが誰かを責めるときは出来るはずの仕事をしなかった時だけだ。出来なかった人のことは決して責めたりしない。やれることをきちんとやらない。そういう人にだけ徹底的に厳しくしているだけだ。


「厳しいでしょう。冬上くん」


昼休み、外でのランチに誘ってくれたのは伊藤さんだった。美味しいパスタを空にしてコーヒーを飲み始めたところで、伊藤さんは意味ありげに言った。


「そうですね。でも理不尽なことは言わないですから。きちんとやらなければ言われて当たり前ですし」
「あら。理解があるのね。というより見ていて思ったんだけど、真下さんて冬上くんと似てるわよね」
「私がですか?それはどういう意味で…」
「んー。気を悪くしないで聞いてもらいたいんだけど、手を抜かないところとか、妥協を許さないっていうのかな。淡々と仕事をしてる感じがねー。私、冬上くんとは同期なんだけど、真下さんみたいに冬上くんと息のあった人って今までいなかった気がするのよ」
「そうなんですか?息が合ってる実感はないんですけど」