絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする

冬上さんの言うことは正論だ。そういう経験がなさすぎて、気づけなかった自分が情け無い。

「はい。肝に銘じておきます」
「でもせっかくの招待だから、お茶を頂くことにするよ。いまの話の後で君がどう思うかはわからないけど、俺は自分に恥じる真似はしない。信頼してもらえるかはわからないけど」

真っ直ぐで力強く輝きを放つ冬上さんの瞳は、仕事でも手を抜かない彼の真面目さを表している気がする。それに、そもそも、冬上さんみたいな人が私なんかをそういう対象として見ること自体ありえないことだ。

「大丈夫です。狭くて古いので驚かれるかもしれませんけど、良かったらどうぞお上がりください」
「じゃあ遠慮なく」

この部屋に男性を上げる日が来るなんて思ってもいなかった。一生独身のつもりでいるし、誰かと付き合うことだって考えられない。それがいくらお礼のためだとは言え、冬上さんみたいなハイスペックな男性が来たなんて。よく飲食店とかに、有名人が来ました的な写真やサインなんかが飾ってあるけど、冬上さんが私の部屋に来たのは、それくらいの出来事だ。

「お口に合うかどうかわかりませんけど」

私の一番気に入っている湯呑み茶碗でお茶を出した。休日のほとんどを家で過ごすから、お茶くらいはプチ贅沢な気分を味わいたくてボーナスの時に奮発して買った有田焼だ。お茶受けには、祖母から送られてきたばかりのどら焼きを出した。

「どら焼きか…。何年ぶりだろうな」

手にしたどら焼きを見つめながら冬上さんが呟くように言った。

「祖母から送られてきたんです。私が甘い物好きだから、よく送ってくれるんです」
「家族仲が良いんだね」
「どうでしょう。妹もこちらに出てきて働いているので遊びに来たりはしますけど…両親とはたまに電話すると喧嘩することも度々で…」

最近は口を開けば、付き合っている相手はいないのか。結婚はどうするんだ。そんな話ばかりで、電話に出ることすら億劫に感じてしまう。昔は25過ぎれば結婚して当たり前だとか言われても、時代錯誤だ。自分たちの結婚が早かったからって、同じ価値観を求められても困る。