絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする


冬上さんのマンションを見た後に私の家を見ると、現代社会の格差をまざまざと見た感じがする。
ここが真下さんの家?と聞いた時の冬上さんは、築55年の平屋を凝視していた。何を考えていたのかは到底わからない。まさか犬小屋?とまではさすがに思われてないと思いたいけど…自信がない。

私は犬を抱いていたから、荷物はほとんど玄関まで冬上さんが運んでくれた。犬は新しい環境に落ち着けないのか、ずっと私にしがみついている。

「これで全部だな。じゃあ俺はこれで」
「あの、冬上さん…。ご迷惑じゃなければですがお茶でもいかがでしょうか」
「それは…、部屋に上がってもいいってこと?」
「そう…、なります…ね」

冬上さんに言われて気づいた。独身女性がこんな時間帯から男性を部屋に上げることの意味を。いやいやいや。そもそも冬上さんが私を襲うとか、天地がひっくり返ったとしても有り得ない事だ。じゃあもしかしたら逆に思われた?

「あの、違います。私はただ、色々として頂いたので本当にお礼がしたいと思って。あと、ワンちゃんも冬上さんと過ごしていたから、新しく過ごす環境に冬上さんがいてくれたら安心出来るかなと思いまして。本当にその、それだけです。決して冬上さんを襲ったりとかそんなことはしませんので…」

あり得ないくらい早口になった自分が恥ずかしくなった。でも仕方ない。はしたない女だなんて冬上さんに思われたら、これからの仕事にだって支障が出るかもしれない。

「ハハッ。真下さんが俺を襲うか」

冬上さんが笑ってる。それもお腹を抱えてだ。堪えきれないらしい。冬上さんてこんな風に笑うんだ。ポーカーフェイスより、ずっと魅力的だ。

「すみません。変なこと言って。この部屋には妹とか家族しかあげたことがないんです。だからその…安全ですから」

安全って何よって、自分でもツッコミを入れたくなった。だけど、何をどう話せばいいか分からない。そういう経験は一切ないから私は安全です、なんてストレートに言えたら楽だけど、引かれるに決まってる。

「真下さんは本当に真面目だな。笑ったことは謝るよ。君は素直にただお茶に誘ってくれただけだろうけど、男は勘違いする生き物だから、今後安易に誘うのは控えた方がいいな」