絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする

渋滞が解消して会社に戻ると、もう退社時刻を過ぎていた。大変だったね、と残っている人たちから次々と声を掛けられた。

営業部で挨拶をしてから経理部に戻ると、残っているのは数名だけで用がないようだから挨拶をして会社を出た。

「いらっしゃいませ。今日もオススメにしますか?」
「はい。いつも通りでお願いします」
「かしこまりました。ごゆっくりしていってくださいね。いつもありがとうございます。なんてね」

店長の椎木(しぎ)さんにウインクしながら言われて、思わず『こちらこそ』と言いそうになった。このお店には開店した当初から通ってる。会社から家までの中間地点にあって、私が入社試験の帰りにぶらついていて見つけたのがちょうど開店当日だった。

おひとり様専門のレストランで、座席も他の人とは顔を合わせなくて済む配置になっているし、居心地がとても良いのと味も良くてハマってしまった。

それに料理は家庭で再現しやすいものが多いから、食べて美味しかったものは家で挑戦してみたりもする。

ここの空間は本当に素敵だ。
みんなが一人だから、誰も周りのことなんて気にしてない。思い思いの時間を過ごしてる。ゆっくり時間が流れている気がする。

「はい。アイスラテね。今日は何かあった?」
「え?そんな顔してますか?」
「うん。何となくだけどね。嬉しいことあったのかなって」
「あー、そうかもですね。今まで誤解してたんだなって見直せた人がいて。それが…嬉しくて」
「なるほどね。まあ人間なんてさ、夫婦だって親兄弟だって、とことん話さないとわからないことだってあるから。誤解だらけだったりするしね。それで揉めたりとか珍しくないし。良かったね、その人のことがわかって」
「そうですね。悪く思ってたから、人ってわかりません」
「そうだね。まあ逆もあるし。人に揉まれて初めて分かるからね。まー、それで疲れちゃったらいつでも食べに来て」
「はい。来ます」

最後に出される『本日のお楽しみデザート』は、和菓子パフェ。抹茶ムース、わらび餅、餡、甘納豆など様々な和菓子が色鮮やかにパフェグラスに盛られている。一番上には三色団子が乗っかっていて、本当に美味しそうだ。嬉しいなと思いながら少しずつ和菓子の山を崩していると、「いらっしゃいませ」と椎木さんの声が響いた。