絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする

本当に一瞬だけど、冬上さんの瞳が揺れたように見えた。

「さっきの会話を聞いていれば、そういう疑問が湧いて当然だな」

だけど声は相変わらず落ち着いていて、動揺なんて一切していなさそうだ。

「隠すことじゃないから答える。俺はここで学生の頃バイトしていた。だから社会人になってからも、時々ここへは来る。それだけだ」

淡々と語る冬上さんに、思わず感心してしまった。ハイスペックな冬上さんは私ごときに感心されたくなんかないだろうけど、許して欲しい。

大企業の創業者一族に生まれて、頭も良くて実力もあって億単位の取引を生み出している人が、平然とこういう小さな飲食店でバイトしていたと話す飾らない態度に、私は心の底からすごいと思った。

「素敵なお店ですね。店内の雰囲気も暖かくて穏やかで。誰でもどうぞ、って言われてるような感じがします」

「そうだな。真下さんの勘は当たってる。そういう店だ」

そう話す冬上さんの表情が本当に優しく見えて、思わず私も笑顔になっていた。

冬上さんは仕事上必要な相手にしか笑顔を見せないなんて嘘だ。人を切り捨てるっていう噂に関しては直接見たわけじゃないから分からないけど、完全な利己主義の人じゃない。もしそういう人だったら、この店に職場の人間を連れてきたりしないだろうし、私に笑顔を見せたりもしないはずだ。