絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする

冬上さんのような人は、食べる場所とかもきっと一流レストランとか隠れ家的なお店とかかと勝手に思ってた。
だけどこのお店は、会社員の私でも普段食べに来られる範囲だ。

JRの駅前を通り越した住宅街の中に溶け込むようにして洋食店はあった。お店の前には、チョークでおすすめメニューが書かれている。端っこには可愛いイラストと共に、お子様連れ、ベビーカーOKとも書かれていた。

正直なところ、冬上さんがこういう雰囲気のお店を選ぶのは意外でしかなかった。来る時も全然迷わなかったから、よく来るんだろうか。

「いらっしゃいませ。こんにちは」

店内に入ると直ぐに黒いエプロンをした女性の店員さんが来た。とても笑顔の素敵な人。30代後半くらいに見える。

「こんにちは。忙しそうですね」

冬上さんが笑顔で返した。でも、取引先で見せた笑顔とは全然違う。とても自然に見える。心から笑っているような…。
でも絶対零度の冬上さんが?そんなことってあるんだろうか。

「ね。忙しいわよ。冬上くんが手伝っていってくれたら助かるんだけどな。どう?」
「いや。遠慮します。それに…仕事中ですから」
「やだなー。冗談よ。冗談。本当真面目ねー。じゃあ、空いてる席にどうぞ」

満面の笑みで、あの冬上さんが女性から冗談を言われて困っているように見えた。手伝うとか、まさか冬上さんはここで働いてたの?でも、スーパーパーフェクトな冬上さんが、こういう場所で働くとか想像出来ない。それに絶対お金には困らないはずだ。

聞きたい気持ちを我慢しながら一番奥の席に座り、メニューを見ていると、冬上さんの方から話しかけてきた。

「ここは子羊(ラム)のカツレツが美味い。あくまでも参考にだけどな」

やっぱり見間違いとかじゃない。このお店に来てからの冬上さんが纏う空気が違う。柔らかいんだ。

いまの冬上さんになら、聞いても冷たく一蹴されるなんてことはない気がする。

「そうなんですね。じゃあ子羊のカツレツにします」
「そうか」
「あの、冬上さん」
「何」
「もしかして、ここで働いたりとかされてたんですか」