千野(せんの)さん、なぜここに呼び出されたかわかりますか?」

放課後の教室。机と机を向かい合わせ、”せんせー”と二者面談。
黒髪でさらりとした髪。かきあげられた前髪はいつだってきちっと整えられているけど、ほんとうは朝が弱くてギリギリまで寝ていることを知っているし、その髪だって、定期的に美容院で黒染めをして色を保っていることも知っている。

「もちろん、わたしとふたりっきりになりたかったから」
「この前のテストが全て赤点だったからです。このままご両親を呼んで三者面談をする必要も出てきますよ」
「えっ、ほんと?ママがね、いっくんに会いたいって言ってたからよろこぶと思う!」
「そういう話をしているのではありません。あと、安堂先生と呼びなさい」

安堂(あんどう)先生”こと、安堂一架(いちか)(24歳長身イケメン)は、わたしの高校の担任の先生でありながら、実は幼いころからの幼馴染。
今ではすっかり敬語+真面目な先生として評判だけど、昔はかなりやんちゃをしていて、髪だってきれいな金髪だった。
このあたりでは一番に喧嘩が強くて、バイクに乗っている姿はかっこよかった。
今ではバイクもやめてもっぱら車が多いし、ですます調になっちゃってるんだけど、それもまたギャップで萌える。

「じゃあ安堂先生、質問です」
「なんですか」
「いつになったら恋人になってくれるんですか」
「先生に向ける質問ではありませんし、恋人にもなりません」

今まで何度もこうしてアタックしているのに、一度だって受け入れてくれたことはない。
家だってそんなに離れたところに住んでいるわけでもないのに休みの日は会ってはくれないし。