夏休みになり、外の空気は蝉の声に震えていた。
日に焼けたくなくて、日焼け止めをこれでもかというくらいに塗り込んだ。

日傘をさして、家の前で待つ。
今日は桔梗と一緒に小説を書く日だ。

一日中書く予定だからしっかりお弁当も作ってきた。料理は得意な方だけど、やっぱり緊張する。
桔梗が私の料理を食べるなんて、想像もできない。

誰でも好んで食べそうなハンバーグにした。
ハート型をしてみたけど、桔梗はそういうことに鈍感な気がした。

二段のお弁当箱を二つ。
しっかりリュックに入っていることを確認した。

電車の中で傾いたりしないだろうか。
保冷剤はちゃんと入れただろうか。

何度も確認したはずのこともやっぱり気になって、さらに確認を重ねてしまう。

「よお」

呑気な挨拶とともに桔梗が現れた。
やや長身な彼の脚がいつもよりすらりと見える。
金髪にピアスのスタイルは変わっていない。

そんな変態なことを考えていた自分が恥ずかしくなってしまった。
そこまで桔梗の様子を観察しなくたって、毎日会っていてそんな変化があるわけないのに。

「おはよう。行こっか」

こんなに暑いというのに、桔梗は涼しそうな笑顔を浮かべている。
その余裕はどこから来ているのだろうか。

「弁当何入ってるの?」

よほど楽しみなのだろう。
そわそわしながら聞いてくる桔梗は可愛らしく、落ち着かない様子が珍しくて思わず笑ってしまう。

「秘密。午前中頑張ってからのお楽しみね」

私ってこんなに意地悪なんだ。
不服そうに頬を膨らませた桔梗は、勢いよく私の手をぐっと掴んだ。強そうな手に包まれて、ただでさえ熱い頬がさらに熱くなるのを感じた。