空は少しだけ暗いけど、夏だからまだ十分明るかった。今日は小説を書く気にはならなかったみたいで、朝と同じように二人で駅に向かった。

桔梗が私のことを好きでいてくれるのは嬉しかったし、桔梗と一緒だと何かと問題が起きやすいというのもわかっている。

もうじき夏休みが始まる。七月は短い。
夏休みは、時々学校で小説を書こうと桔梗と約束をしている。だから、会えなくて寂しいなんてことはない。
学校に集まる日は私がお弁当を作ることになっているから、ちゃんと料理の練習もしておきたい。

蒸し暑い空気に、すごく遠くに聞こえる蝉の声。
ちょっとだけ長い影を追いかけては、繋がった手の影を見つめた。

「夏休みさ、どこか遊びに行こうよ」

何気なく、桔梗に聞いてみた。
学校の外では会ったことはないし、桔梗の私服も見てみたい。
せっかくの高校二年生の夏。もちろん勉強も大変だけど、満喫しないと損だ。

「いいよ」

たった三文字の、短い返事。
でもその三文字がすごく嬉しかった。

夏祭り。海。プール。花火。

夏のデートなんて調べればたくさんあるだろう。

「じゃあどこ行くか、考えておくね」

ぎゅっと、繋がれた手に力がこもった。
大丈夫だ。今も、私たちは繋がれている。

たとえ紅ちゃんの言葉に傷ついたとしても、私には桔梗がいる。

本格的な夏を前に、私の心は幸せに燃えていた。