The previous night of the world revolution8~F.D.~

「…オルタンス。何やってんだ」

「丁度良いところに来た。アドルファス、これを嗅いでみてくれ」

何が「丁度良いところに来た」だ。

俺にとっては、超絶バッドタイミングだよ。

絶対ろくなことじゃないと、俺の経験と勘が言ってる。

来て早々で悪いけど、やっぱり回れ右して帰って良いか?

「つーか、何なんだよこの部屋は…!?香水瓶でも倒したのか?」

決して狭くはない部屋のはずなのに、香水の匂いがむんむん立ち込めている。

しかも、これは普通の香水じゃないぞ。

爽やかなフルーツの香りでも、女が好きそうなフローラルな香りでもない。

さながらルレイアが目の前にいるかのような、濃厚でオリエンタルな香り。

…気絶しそうなんだけど?

「倒してはいないぞ。ほら、これだ」

と言って、オルタンスはテーブルの上のガラス瓶を指差した。

何種類もの洒落た、蓋の空いた香水瓶が、これでもかと並んでいる。

蓋を閉じろ。何で開けっ放しなんだよ。

匂いのもとはそれかよ。

「…何なんだ?それ」

「見ての通り、香水だ」

そりゃ見たら分かるっての。

俺が言いたいのは、そういうことじゃなくて。

「何でそんなに香水ばっかり並べてるんだ」

お前、香水収集が趣味だったか?

普段はそれほど、自分の使う香水にこだわってるようには見えないがな。

「良い匂いだと思わないか?」

「別に…。何で同じ種類の香水をそんなに…」

「同じ種類じゃないぞ。これらは全部、違う香水だ」

え?

全部黒い瓶だから、同じ種類だとばかり…。

「俺には区別がつかないんだが…。違う種類なのか?それ…」

と、聞いてしまったのが間違いだった。

オルタンスは、よくぞ聞いてくれたとばかりに、

「これはルレイアが新しく作った香水ブランド、『Black Dark Perfume』の香水だ」

ドヤ顔で、そう答えた。

…ぶん殴りたくなる顔だな。

ルレイアの…香水ブランドだと?

「…あいつ、そんなもの作ってたのか?」

「あぁ。つい最近出来たばかりだ。オープン当日に行きたかったんだが、残念ながら仕事が入ってて行けなくてな…」

それは仕方ないだろ。

どう考えても、仕事優先に決まってる。

「仕事を優先すべきか、ルレイアを取るか一晩悩んだんだが、王室関連の任務だったからさすがに断れなくてな…」

しょぼーん、と呟くオルタンス。

…一瞬でも、ルレイアの香水店を優先しようかと考えるのが間違ってるだろ。

こいつ、本当に帝国騎士団長か?もうクビにしろよ。

すると。

オルタンスは、しゅばっと顔を上げた。

「しかし嬉しいことに、ルレイアの香水店では、店舗に来れない人向けにネット販売も行っていてな」

「は、はぁ?」

「これは幸いと、早速会員登録してありったけの香水を購入した。ルレイアオリジナルの香水は全種類制覇したんだぞ」

謎のドヤ顔、再び。

…殴りてぇ…。

成程、それで何種類も香水瓶が並んでるのか。