The previous night of the world revolution8~F.D.~

『朧月』さんは、非常に冷静で、そして優秀だった。

彼は依頼を受けた振りをして、依頼主のことを『ツキノミコト』に報告した。

そこから、『ツキノミコト』の更に上の上司であるアイズに話が渡ったのだ。

こんな勝手な依頼、断ることは簡単だった。

しかし、これは俺を嵌めようとした真犯人を逆に罠にかける為の、絶好の機会だった。

そこで、俺は『朧月』さんと共に一芝居打つことになった訳だ。

『朧月』さんに俺の自宅に侵入してもらって、俺は不意打ちを受けた振りをした。

実に素晴らしい手際でしたね。

あらかじめ『朧月』さんが来ると知らなかったら、うっかり引っ掛かってたかもしれませんよ。

特に、俺の寝室から、秘蔵のルルシー映像のDVD(ルリシヤ監修)を取り出して、寝室の入り口に仕掛けていたところ。

あれはうっかり触っちゃいますよ。人間の本能というものを理解していらっしゃる。

おまけに、ピアノ線を引っ張ってから錐を突き立ててくるまでの、一連の流れるような動き。

まさにプロの技でしたね。いや、プロなんですけど。

とはいえ、あれはあくまで演技。

刺す振りをしただけで、実際には刺されてないし、従って毒も全く効いてない。

血糊は、ルリシヤが作ってくれたリアリティ溢れる一品である。

見た目、完全に血にしか見えませんよ。

何なら匂いまで完全再現されていて、職人ルリシヤの腕の高さを実感。

お陰で、この間抜けな復讐者達を騙すことが出来た。

協力してくれた『朧月』さんに感謝。

「…騙したのね。私達を、また…!」

怒りに燃える、片腕の復讐者。

騙したのね…と言われても。

恨むなら、愚かにも『ツキノミコト』に仕事を依頼した自分達を恨んでください。

それより、久々の再会を祝うとしましょう。

「また会えて嬉しいですよ。…ミューリアさん。エルスキーさん。…それにアシベルさんまで」





覚えているだろうか。

俺は覚えてますよ。…顔を観るまで存在ごと記憶から消えてましたけど。

ミューリア・エルレアス。

エルスキー・ミルヴァーレン。

アシベル・ウィシナー・カルトヴェリア。

かつて、『シュレディンガーの猫』という組織と『青薔薇連合会』が対立した時。

俺が初めてルナニア・ファーシュバルの偽名を使い、私立ランドエルス騎士官学校に潜入した時のクラスメイトである。