The previous night of the world revolution8~F.D.~

指定したポイント…そこは、帝都の外れにある、小さな空き家だった。

その空き家に、私達はこっそり足を踏み入れた。

死んだような静けさが広がっていた。

だが、私の心臓はうるさいほどに高鳴っていた。

いよいよ、待ち望んでいた瞬間が来る。

そう思うと、落ち着かないのも当然というものだ。

足音を潜めながら、真っ直ぐリビングに向かうと。

古びたソファの上に、「それ」はいた。

黒いコートを身体にかけて、ぐったりと項垂れている男。

いた。見つけた。…あの男が。

その姿を見つけるなり、脳みそが沸騰しそうになった。

「…!お、お前…!」

思わず殴りかかりたい衝動に駆られたが。

「…落ち着け」

私の協力者に止められた。

冷静を装ってはいるが、彼も声が上ずっていた。

緊張しているのだ。私と同じく。

私だけが、気持ちを逸らせる訳にはいかなかった。

あの男は、既に私達の仕掛けた檻の中にいる。

焦る必要はない。

「はぁ…はぁ…」

何度も深呼吸をして、私は何とか気持ちを落ち着けた。

やっと、待ち望んでいた瞬間が来たのだ。

…すぐに終わらせるのは勿体ない。

殺すのは当然だが、その前に地獄を味わわせてやらなくては。

私達が味わった、地獄のような苦しみを。

「…憐れなものね。そんな姿になって」

暗殺者は、神経毒を使ってあの男の…ルレイア・ティシェリーの動きを封じている。

おまけに、手錠と結束バンドで手足を拘束している。

逃げられる心配はなかった。

私は、ソファにぐったりと身体を預け、悶えるしかないルレイア・ティシェリーに言った。

「久し振りね。あなたはずっと、私のことなんか眼中になかったんだろうけど…私はずっと覚えてた」

ゆっくりと、そのソファに近づきながら。

「一日だって、一分一秒だって忘れたことはなかった。私を…私達を騙したあなたのことを。…私の腕を切り落としたあなたのことを」

今だって、その腕の傷跡が疼く。

片腕が亡くなったことで、私は帝国騎士になる道を絶たれた。

それどころか、自分の人生に希望を持って生きることすら出来なくなった。

ならば、どうするか。

決まっている。

私を地獄に陥れたこの男に復讐し、私を裏切った報いを受けさせる。

そうすることで私は初めて、この男の呪縛から解放されるのだ。

「…私達三人共、ずっとあなたを呪い続けてきた。何年もずっと…復讐する為に、様々な策を講じて…」
 
どれだけの時間と、労力と、費用がかかったことか。

協力者の一人が貴族出身でなかったら、平民の私達だけだったら、とても無理だったろう。
 
その貴族の協力者だって、暗殺者に報酬を支払う為に、家の財産を全て費やしてくれたのだ。

だから私達にとっては、これが最後のチャンス。

ようやくこの手が、お前に届く。