The previous night of the world revolution8~F.D.~

廊下から聞こえてくる足音からして、ターゲットは一人で帰宅したようだ。

それは何より。

うっかり友人や家族が一緒だったら、殺す手間が増えるところだった。

「ふー。再会お祝いパーティー、楽しかったー。久し振りに仲間達とわいわいやれて」

嬉しそうに独り言を言いながら、リビングに向かっている音が聞こえた。

「今日もルルシーは素敵でしたね。…にゅふふふ…」

…怪しげな声も聞こえる。

今のは聞かなかったことにして。

その時、不意に、微かにお酒の匂いを感じ取った。

…お酒?

どうやら、ターゲットはお祝いパーティーとやらで飲酒したようだった。

僕にとっては大変都合が良い。

酒に酔っているなら、判断力も身体の動きも、多少鈍くなっているだろう。
 
あとは、ターゲットが寝室にやって来るのを待つだけ。

案の定、ターゲットはリビングを出て、無防備にペタペタと寝室にやって来た。

「…あれ?」

ターゲットが、不意に立ち止まった。

入り口に仕掛けた、DVDケースに気がついたのだ。

「俺の秘蔵のお宝が…。どうしてこんなところに…」

ターゲットは寝室の入り口にしゃがんで、DVDケースを手に取った。

今が好機。

ここぞとばかりに、僕は入り口に仕掛けた透明なピアノ線を引っ張った。

「っ!?」

ピアノ線が足首に引っ掛かり、ターゲットはもんどり打って寝室に倒れ込んだ。

その隙に、僕は潜んでいたソファの影から立ち上がり、一気にターゲットに肉薄。

ターゲットの脇腹に狙いを定めて、錐を思いっきり刺した。

「うぐっ…」

ターゲットは苦悶の声をあげて、一歩、二歩とよろめいた。

錐の先には、特製の神経毒が塗ってある。

「あ…な、たは…」

「…」

ターゲットは、出血する腹部を手で押さえて呻いた。

…残念だけど、僕のことを聞かれても、答えるべきことは何もない。

僕は命令に従っただけ。命令に従って、いつも通り殺すだけ。

それだけだ。

「…」

刺された腹部を押さえたまま、ターゲットはその場に崩れ落ちた。

…ようやく毒が回ったか。

いつもの仕事なら、脇腹ではなく、心臓を一突きにして殺す。

だが、今回の依頼は殺害ではなかった。

依頼者の望みはターゲットの暗殺、ではなく。

ターゲットを瀕死の状態にして、指定した場所に連れて行くこと。

こういう依頼は、珍しいものではない。

怨恨目的の暗殺の場合、とどめは自分自身の手で刺したい、という依頼は、ままある。

神経毒のお陰で、ターゲットは半日はろくに動けまい。

念の為に、倒れたターゲットの手首に手錠を嵌め、足首にも結束バンドを巻く。

さぁ、これで準備は完了。

あとは大きなスーツケースに折り曲げて入れ、指定のポイントまで運ぶだけだ。

その後のことは、依頼者に任せよう。