The previous night of the world revolution8~F.D.~

指紋を残さないよう、手袋を嵌め。

動きやすい地下足袋に履き替えて、室内に侵入する。

普段、ターゲットの家では、女中代わりの奴隷女が、主の身の回りの世話をしているそうだが。

今日は出掛けているらしく、部屋の中は無人だった。

「…」

…それにしても。

僕はこれまで暗殺者として、様々なターゲットの家に侵入してきたが。

こんな家は初めて見た。

家じゃなくて、何処かの美術館の一室に迷い込んだようだ。

だって、なんて言うか…何もかも、真っ黒なのだ。

廊下も壁も天井も、全部黒塗り。

恐る恐る廊下を進むと、広々としたリビングがあった。

ソファもカーペットも、窓にかかってるカーテンも。

壁時計の文字盤も針も黒光りしていて、時計としては非常に見にくい。

こんな家で暮らしてるのか…。もしかして色盲の人…?

それとも、単に黒が好きなのだろうか。

いずれにしても、凄い趣味だ。

何処に罠を仕掛けようかと、迷ってしまうね。

「…」

しばらくリビングの中を見渡したが。

あまりに広過ぎて、ピンポイントに罠を仕掛けるのは難しい。

狙うなら、もっと狭い場所の方が都合が良い。

そこで、僕は次に、リビングを出て寝室に向かった。

「…うわぁ…」

何度も言う。僕はこれまで、様々なターゲットの家に侵入してきた。

しかし、こんな気持ち悪、いや、特殊な家は初めて見た。

寝室も、廊下やリビングと同じく、家具は全部真っ黒である。

何なら鏡まで黒光りしてるくらい。

…これ、鏡の意味ある?

でもそれ以上に異様なのは、部屋中の壁と天井に、べたべたと貼り付けてある写真。

全部同じ人物の写真。

ポスターみたいに、大小の大きさの写真が貼り付けてある。

しかも、女性じゃなくて男性の写真だよ。

ターゲットは、よっぽどこの人が好き…もとい、執着してるようだね。

まるでストーカーの部屋だよ。

って言うか、実際ストーカーなんだろう。

だって、この部屋にベタベタ貼ってある写真に写ってる男性。

全部、カメラの方を向いてないんだもん。

恐らく、どれも隠し撮りしたものなのだろう。

おまけに、相当長い間盗撮されているらしく。

壁に貼られてる写真、全部別の服着てる。

冬服もあれば、夏服もある。

恐ろしいことに、寝巻きを着て眠ってる時の写真まで。

一体、何年単位で盗撮され続けているのか。

この写真に写ってる男性、誰か知らないけど…可哀想だね。

凄く同情するよ。

実は僕には、演劇の脚本を考えるという密かな趣味があるんだけど。

今度の脚本、ストーカー狂が主人公の話にしようかな、って思った。