The previous night of the world revolution8~F.D.~

それからしばらく、ルレイアとマリーフィアは楽しそうにお喋りに興じていた。

それにしても、ルレイアの話の引き出しの多いこと多いこと。

マリーフィアは貴族故に、多趣味で、聞けば聞くほど色々な話題が飛び出してくる。

音楽から始まり、好きなクラシック音楽だの、作曲者だの、ピアニストだの。

それから絵画やアンティーク、園芸、スポーツなど、いかにも貴族らしい趣味の話が次々と。

俺だったら、絶対話についていけない。

俺の知ってる音楽と言えば…。

…『frontier』と『ポテサラーズ』くらいしか知らない。

お洒落なクラシック音楽なんて…。…猫踏んじゃったくらいしか…。

…お洒落か?この曲。

『frontier』と『ポテサラーズ』なら語れる気がするが、それ以外の音楽は無理。

仕方ないだろ…。ルレイア達がいつもしこたま聴いてるから…。俺も巻き込まれてライブとか…幾度となく連れて行かれて…。

ましてや絵画なんて全く分からないし、園芸なんてマジで、まったくの無知。

それなのに、ルレイアはどのような話題を振られても、「知らない」と言うことは決してなかった。

どんな話題でも、「それって○○が○○なんですよね」とか、「確か○○って人の○○が有名ですよね」とか、必ず何かしらの知識を持ってる。

しかもその喋り方も上手くて、自然と、話を広げるような話し方をする。

自分の知ってる分野について、相手が共通の知識を持っていたら、誰でも気を良くして話したがるものだろう?

初対面の人と共通の話題を見つけると、途端に打ち解けて話しやすくなることって、ない?

「○○って知ってる?」「あぁアレね、知ってる知ってる」みたいな。

何を喋ってもルレイアが上手いこと話を広げてくれるものだから、マリーフィアもすっかり気を良くして、うきうきとお喋りに夢中である。

凄いよな…。俺だったら、「○○って知ってる?」「ごめん、知らない」「あっ…」って感じで、一瞬で話題に詰まりそう。

俺の話の引き出しの少なさよ。

「じゃあ、マリーフィアさんは旅行もお好きなんですね」

「はい。色んなところに行きますの」

「そうですか…。最近人気の観光地と言えば、箱庭帝国なんてどうですか?」

おっ。箱庭帝国なら、俺もちょっとは知ってるぞ。

何なら行ったこともある。その…革命しに。

しかし、マリーフィアの反応は。

「まぁ、箱庭帝国?わたくし、箱庭帝国に行ったことはありませんわ」

とのこと。

「おや。海外旅行はお嫌いですか?」

「そうではありませんけど…。箱庭帝国って、危険ではないかしら。少し前まで、国内がゴタゴタしていたようですし…。えぇと、なんて言いましたっけ。憲兵隊…?」

「憲兵局のことですか?」

長く箱庭帝国を支配していた、独裁機関の名前だ。

俺達『青薔薇連合会』と、ルアリスの革命軍が打倒した…。

俺にとっても、革命軍の当事者だったルアリスにとっても、生涯忘れられない大事件だ。

しかし…。

「そうそう。憲兵局というのがいるのでしょう?危険じゃありませんの?」

「まさか。箱庭帝国では革命が起きて、既に憲兵局は存在しませんよ。すっかり治安も安定して、旅行に行っても安全です」

「まぁ。そうだったんですの?」

箱庭帝国の情勢をよく知らない人にとっては、この程度の認識なんだなって。

…ルアリスが必死に、観光事業に力を入れて、箱庭帝国の悪いイメージを払拭しようと努力しているというのに…。

ルティス帝国の貴族達の耳に届くには、まだまだ時間がかかるようだ。