The previous night of the world revolution8~F.D.~

そこは、さながら華やかな貴族のパーティーだった。

…いや、実際貴族のパーティーなんだけど。

この部屋だけ、中世の宮殿の夜会会場みたいだ。

天井には巨大なシャンデリアが、煌々と光り。

その光の下で、きらびやかな格好をした貴族達が、シャンパングラス片手に、世間話に花を咲かせている。
 
誰もが微笑を浮かべていて、一見するととても楽しそうな人々の集まりのように見えるが。

これでも裏社会を生きる者として、ルレイアほどじゃないが、人を見る目は鍛えられている。

ここにいる人々が浮かべる笑みは、ほとんどが偽物だ。

あの、顔に貼り付けた仮面のような、作り物の笑顔。

鏡を前に何時間も訓練して、「こんな風に微笑めば好印象を与えられる」という笑顔を、常に顔に貼り付けているようだ。

全員が、そんな作り物の微笑を浮かべている光景は。

好印象どころか、逆に不気味に感じられた。

そう思うのは、俺が貴族じゃなくて…単なる平民に過ぎないから、なんだろうけど…。

…嫌な笑顔だな…。見ていて気持ち悪い…。

「なんて言うか…。…凄いな…色んな意味で…」

「…ふん。下らないお貴族様の礼儀作法って奴ですよ」

吐き捨てるようにルレイアが呟き、俺は自分が失言してしまったことに気付いた。

ルレイアだって、昔はそんな貴族の一人だったのだ…。

「ご、ごめん。ルレイア…」

「良いんですよ、気にしないでください…。…それより、今の俺はルナニアですよ」

「そ、そうか…。そうだったな…」

…何だか慣れない。ルナニア、ルナニアな…。

「…それで…カミーリア家の次女は?いるか?」

「さぁ。わざわざ骨を折ってここまで来たんですから、いてくれないと困りますけど」

一応、今のところはパーティーに出席予定、になっていたが。

何らかの事情があって、やっぱり不参加…なんてことになったら。

ここまで来た俺達の苦労って、一体。

いや、俺はルレイアの付き添いで来ただけで、ほとんど何もしてないようなものだけど。

パーティーの招待状を得る為に骨を折ってくれた、アイズの苦労が報われないよ。

調査書に載っていた、マリーフィアの顔写真を思い出しながら、きょろきょろと会場内を見渡す。

くそっ。見慣れない顔が多過ぎて、マリーフィアの顔を判別するのも一苦労…。

しかも。

「ルルシー、挙動不審は駄目です。怪しまれますよ」

「くっ…」

ルレイアの言う通りだ。貴族連中が集まっているこの会場で、ただでさえ貴族じゃない俺は悪目立ちしかねないのに。

周囲をきょろきょろ覗き回っていたら、それこそ不審者だ。

最悪、さっきの入り口の番人に、つまみ出されないとも限らない。

「でも、どうやって見つければ…」

「まぁ見ててください。そんなに露骨にきょろきょろしなくても…」

ルレイアは一切顔を動かさず、視線だけを僅かに動かして、一瞬で周囲の人間の顔を判別。

ものの数秒足らずで、

「…見つけた」

「えっ…」

あっという間に、ターゲットロックオン。

…早過ぎないか?