The previous night of the world revolution8~F.D.~

―――――…その日の夕方。
 
ルレイアと共に貴族様のパーティーに参加する俺は、珍しく礼装に着替えた。

「まぁ…こんなもんかな…」 

姿見の前で自分の格好を確認し、次にルレイアの部屋に向かった。

「おい、ルレイア。そろそろ支度…」

「あぁルルシー。今、会いに行こうと思ってたんですよ」

「…お…。…おぉ…」

「?どうかしました?」

いや…その…ちょっと…。

部屋に入るなり、ルレイアの姿を見てびっくりした。

いつもの真っ黒な服装は変わらないのだけど、その、なんて言うか…。

「さてはルルシーさん…ルレイア師匠の美貌に惚れ直しました?」

ルーチェスが茶化すように言い、俺は思わずドキッとしてしまった。

いや、違うっての。いや違わないかもしれないけど。でも違う。

「ち、ちが…ちょっと、いつもと雰囲気違うなと思っただけだよ」

「やっぱり惚れ直したんじゃないですか」

おま、この。ルーチェス。茶化すな。

そんなこと言ったら、ルレイアがすぐ調子に乗って…。

「本当なんですか…?ルルシー、俺に惚れ直したというのは…!?」

「だから違うっつーの」

案の定、目をキラキラ輝かせてやがる。

ったく、ルーチェスの奴が余計なことを言うから。

「いつもの格好とは、ちょっと違うから…気になっただけだよ」

「あ。ルルシーは俺の『仕事着』、あんまり見たことありませんでしたね」

…仕事着、なのか?

いつもの真っ黒なスーツ…なのは変わりないんだが、そのスーツのデザインも、いつもよりシックで、上品だった。

アクセサリーも化粧も控えめで、清楚なイメージ。

…あのルレイアが「清楚」とは。一番似合わない言葉だ。

いつもの超オリエンタルな香りの香水も、今は鳴りを潜めている。

「ルレイア…お前、香水変えた?」

「えぇ。今日は珍しく、シプレーノートの香水をつけてみました」

し、しぷれー?

とにかく、いつもより上品で、落ち着いた香り。

それでいて、控えめながらもしっかり自己主張してくる。そんな香りだ。

良い匂いだな、それ。お前、もうオリエンタル香水つけるのやめて、一生それだけ使ったら?

「ちなみに、これもルレイア・ブランドの香水店の商品ですよ」

「あ、そう…」

自社製品を使って、アピールしていくスタイル。

ちゃっかりした奴だよ。本当…。

「お前、そういう控えめな格好も出来るなら、普段からそうすれば良いのに…」

「嫌ですよ。本当はもっとゴシックな格好をしたいのに、貴族様のパーティーだからと思って、必死に我慢してるんですからね」

一応ルレイアなりに、TPOを弁えた格好を心掛けているらしい。

まぁ、仕方ないよな…。裏社会の会合ならまだしも、今回は表社会の…しかも、貴族の紳士淑女が集まるパーティー。

下手に派手な格好をしたら、嫌でも悪目立ちしてしまう。

「貴族というのは、品格だの礼節だの、そういう下らない見栄の張り合いに命を掛けてる連中ですからね」

「…」

「一応、奴らに合わせてやらないといけないでしょう。気は進みませんけど」

「…そうか…」

元貴族のルレイアが言うのだから、そうなのだろう。