The previous night of the world revolution8~F.D.~

セルテリシアは、じっとテーブルの上のジュエリーボックスを見つめた。

…そして。

「…ルレイアさん。私は誓って、部下に『ローズ・ブルーダイヤ』を盗み出すように指示していません。あなた方を陥れるようなこと、『青薔薇連合会』の名に傷をつけるようなことは…一切していません」

「そうですか」

「ですが、私の部下が、独断で『ローズ・ブルーダイヤ』を盗み出したのなら…その責任は、私が取らなければなりません」

…ほう?

セルテリシアは怯えた表情の奥に、決意を固めた眼差しでこちらを見つめていた。

「私が…私が責任を持って、『ローズ・ブルーダイヤ』をカミーリア家の方々にお返しします」

「…!セルテリシア様…!」

側近のミミニアが、驚愕に目を見開いてセルテリシアを制止した。

「いけません…!そのようなことをしてら、セルテリシア様が咎めを受けることに…」

「私の部下が行ったことなら、私がその責任を取らなければなりません」

へぇ。

殊勝な心掛けじゃないか。部下に責任をなすりつけることしか考えてない、ローゼリア元女王にも聞かせてやりたい。

「勿論、犯人は必ず見つけ出します。その上で、責任を持ってダイヤをカミーリア家の方々に返します。決して、ルレイアさん達に迷惑は…」

「既に迷惑、かけられまくってますけどね」

「…それは…返す言葉もありません」

分かっているならよろしい。

一見小娘に見えて、確かに小娘なんだけど、一応これでも、人の上に立つ者としての最低限の資質は備えているらしい。

先日の件で俺に手酷くやられて、少しは成長したか?

…でも。

残念ながら、事態はもう、セルテリシアが謝罪して全てが丸く収まる、という段階を越えている。
 
「大変殊勝な心掛けで結構ですが、残念ながら、あなたが謝る程度じゃ済みませんよ」

「…え…?」

セルテリシアがいかに謝罪しようとも、『ブルーローズ・ユニオン』の犯行だとバレた時点で。

『青薔薇連合会』の名に傷がつく。最悪、裏社会における『青薔薇連合会』の地位を揺るがしかねない。

お偉い上級貴族様は、総じて、裏社会のマフィアだの地下組織だのは、薄汚いチンピラの集まりだと思っている。

ハナから俺達を見下している。

自分も貴族だったから、よく分かる。貴族連中が俺達マフィアのことをどう思っているのかは。

セルテリシアが謝罪したって、素直に聞き入れて許してくれるとは思えない。

むしろ、「お前ら全員ブタ箱に叩き込んでやる」とブチギレるんじゃないだろうか。

こちらの事情など加味してくれない。

路地裏のネズミが謝ってきたって、聞き入れるはずがないだろう?それと同じだ。

ネズミは一匹残らず捕まえて駆除。当然のことだ。

「ルリシヤ。…カミーリア家の動きは?それに、帝国騎士団は」

俺は、ルルシーの反対隣に座っているルリシヤに声をかけた。

ルリシヤはタブレット端末を操作しながら、

「ふむ…。今のところ変化はない。どうやら連中、宝物庫から『ローズ・ブルーダイヤ』が盗み出されたことに、まだ気づいてないようだな」

それもまた間抜けな話ですね。

大事にしまい込み過ぎて、なくなったことにも気づかないとは。

もう、そのまま一生紛失に気づかずに生涯を終えてくれませんかね。

「だが、彼らがダイヤの紛失に気づくのは時間の問題だろう。遠かれ早かれ、捜索が始まるはずだ」

「…でしょうね」

今日、今この瞬間に気づいて、捜索が始まってもおかしくないのだ。