ーーーーー…バスターミナルでルレイア卿を見つける、その数時間前。



突然、とある人物が帝国自警団本部に、堰を切ったように飛び込んできたのだ。

その人物というのは。

「ブロテ団長…ブロテ団長はいるか…!?」

「…!あなたは…」

真っ青な顔をした、帝国騎士団副団長。

ルシェ・エリザベート・ウィスタリアだった。

「一体何があったの?そんな血相を変えて…。とりあえず落ち着いて、部屋に案内するから…」

「駄目だ…。もう時間がないんだ。他に頼める者がいない」

そう言って、ルシェ卿は苦しそうな表情で、私の両肩を掴んだ。

我を失ったような彼女の姿に、私は酷く驚いたものだ。

私はこれまで、彼女を見る度。

いつも凛として、毅然で、見ようによっては冷血とも思われる女性だと感じていた。

そんな彼女が、これほど我を失うなんて。

きっと、ただ事ではないと思った。

「どうしたの…?一体何があったの?どうか落ち着いて…順序立てて話して」

私に出来ることなら何でも…と、までは言えないけれど。

可能なら、手を貸すことは厭わない。

助けを求めて頼ってきた人を、見捨てるなんて出来なかった。

「さぁ、落ち着いて。何があったのか話して」

「あ、あぁ…。…済まない。…昨日、サイネリア家の当主が殺された事件を知っているか?」

ようやく少し冷静さを取り戻して、ルシェ卿が話してくれたが。

それは私にとって青天の霹靂で、今度はこちらが狼狽える番だった。

「えっ…。そんな…ことがあったの?」

この時点で、まだ帝国自警団にはそのニュースは伝えられていなかった。

故に、私はこの時、何があったのか初めて聞かされたのだ。

サイネリア家って言ったら…確か、上級貴族の…。

「それは…大変な事件ね。貴族の当主が殺されるなんて…」

人の命に貴賤がないのは分かっている。

貴族の当主だろうと、庶民の子供だろうと、命の価値は同じ。

でも、貴族出身者が多数を占める帝国騎士団では、きっと私達よりも事態を重く受け止めているはずだ。

しかし、ルシェ卿が言いたいのはそういうことではなかった。

「…ルレイアが」

「え?」

「…ルレイアが…その殺人事件の容疑者にされてしまったんだ」

苦虫を噛み潰したような顔で、ルシェ卿はそう言った。

私は、思わずびっくりして二の句が継げなかった。

…嘘、でしょ?