The previous night of the world revolution8~F.D.~

そんなオルタンスを、アストラエアはジロリと睨んだ。

「…貴様、名誉ある帝国騎士団を穢すつもりか?」

おぉ、怖い怖い。

アストラエアにしてみれば、特別隊だろうと何だろうと。

一度でも裏社会に身を置いたことのある者を、「帝国騎士」と名乗らせることが屈辱以外の何物でもないのだろう。
 
気持ちが分からなくもない。

倫理的に考えれば、正義を謳う帝国騎士団が、マフィアの幹部を受け入れて良いはずがない。

…だが。

「…分からないのか?」

オルタンスは、平然とした顔でそう抜かした。

「…何が?」

「ルレイアは、自分がこうすると決めたことは、どんな手段を使っても必ず実行する男だ」

…まぁ、そうだな。

「多分ルレイアは、何らかの事情があって、帝国騎士団に戻らざるを得ない理由があるんだろう。カミーリア家の当主に命じられた、とか」

「…はぁ…」

「ルレイアが戻ると決めたのなら、どんな手段を使ってでも帝国騎士団に戻ってくるだろう。俺達が下手に拒絶したら、ルレイアが何をするか分からないぞ」

「…」

…言われてみれば。

オルタンスに言われ、ここにいる全員が想像した。

帝国騎士団に拒絶されたルレイアが、次にどんなことをするか。

「最悪、ここにいる誰かを抹殺して、空いた席にちゃっかり自分が座りかねないぞ」

「…」

…オルタンス。お前、恐ろしいことを言うな。

思わず身震いしてしまったじゃないか。

…有り得る。十二分に有り得る。

想像する。

闇に潜んだルレイアの、愛用の黒い鎌で首をスパーンと斬り落とされ。

三番隊隊長の席に、ちゃっかりとルレイアが座っている姿を。

…やべぇ。めちゃくちゃリアルに想像出来てしまった。悪夢じゃないか。

本気のルレイアに闇討ちされて、生きて日の目を見る自信がない。

俺はルレイアが戻ることに反対はしてないからな。

闇討ちするなら、反対しているアストラエアやユリギウス、それにフレイソナを狙ってくれよ。

暗殺を未然に防ぐ為にも、素直にルレイアを受け入れた方が良さそうだな。

「…決まりだな」

最早選択肢はない。

なんとまぁ…奇怪な事態に陥ったものだ。

…とりあえず、俺は関わらないようにしよう。自分の身の安全の為に。