The previous night of the world revolution8~F.D.~

…ノリノリのオルタンスのことはどうでも良い。

こんな気持ち悪い男は放っておいて、仕事をするぞ、仕事を。

とは言っても、今日の会議は大した内容じゃない。

いつも通りの、型式通りの定例報告だけである。

のんびり聞いてりゃ良いくらいの話。

…しかし。

今日は大した議題もないものと、たかを括っていたが。

油断しきっていた俺達に、突然とんでもない爆弾が投下されることになる。

「それじゃあ、会議の最後にいくつか連絡事項を…。まず来週に迫った、女王陛下の隣国査察のスケジュールが決まったから、各自確認しておいてくれ」

はいはい。

「それと、帝国騎士団隊舎の避難訓練が予定されてるから、覚えておいてくれ」

はいはい。

「あと、最近帝国騎士の中で風邪が流行ってるみたいだから、注意してくれ」

はいはい。

「それから、来月ルレイアが帝国騎士団に戻ってくるから、そのつもりで宜しく」

はいはい。

…はい?

「あ、それと来年度の帝国騎士団の創立記念日に、何かイベントを企画しようと思うんだが、何か案があったら来月までに意見書を提出してくれ」

ちょ、ちょっと待て。ちょっと待った。

この場にいたオルタンス以外の全員が、「あれ?」みたいな顔をしていた。

今さっき、一見どうでも良さげな連絡事項の間に、とんでもないものが挟まってなかったか?

俺の気の所為か?

オルタンスだけが、何かあったのかと言わんばかりにきょとんとしていた。

何かあったのか、はこっちの台詞だ。

「ちょっと待てオルタンス。お前さっきなんて言った?」

「…?帝国騎士団の創立記念イベントが…」

「その前だ、その前。なんかとんでもないこと言わなかったか?」

空耳のフリして流そうとしたって、そうは行かないぞ。

洗いざらい吐け。

「その前…?…避難訓練のことか?」

「それじゃなくて…!他にあるだろ?」

「他…?えぇと…他に伝えるべきこと…」

オルタンスは、顎に手を当ててしばしじっくり考え。

出てきたのは、

「…先週配信されたばかりの『frontier』の新曲がエモ過ぎるから、皆是非聴いてみてくれ」

「…そんなどうでも良いことを報告しろとは言ってない」

エモいってお前。何処で覚えてきたんだそんな言葉。

聞いたことあるか?エモいなんて言葉を口にする帝国騎士団長。

お前は歴代の帝国騎士団長の皆様に謝れ。

「yourtubuで公開されてるMVも凄く良いぞ。何ならMVの動画をダウンロードして、全帝国騎士にメール添付して一斉送信しようかと考えていたところだ」

「迷惑メールはやめろ」

違う、そうじゃない。俺が言いたいのは。

それよりも、お前、さっき…。

「…あの…聞き間違いでなれば、先程…ルレイア殿の名前が出たような気がするんですが、あれは一体…?」

勇気を出した四番隊隊長ルーシッドが、そっと挙手して尋ねた。

偉い。俺はそれを言いたかったんだ。

助かったぞルーシッド。お前みたいな若者がいてくれれば、帝国騎士団はまだまだ安泰である。