――――――…その少し前、帝国騎士団では。




その日は、週に一度の隊長会議の日だった。

いつも通り会議室に向かうと。

「…♪♪♪〜」

…何やら、非常に上機嫌な男がいた。

ヘッドホンをつけて。音楽聴きながら。

…何こいつ?

「?どうされたんですか、アドルファス殿。入り口で立ち止まっ、うわっ…」

俺の後ろからやって来た、四番隊隊長のルーシッドが、俺と同じく、「それ」を見てビクッと足を止めた。

…お前もそういう反応になるよな。

そりゃ誰でもそういう反応になる。

…何が嬉しくて、ノリノリのオルタンスを見なきゃならんのだ。

朝からこんなもの見たら、気分が悪くなる。

更に。

「えっ…。ど、どうしたんだ?オルタンス殿は…」

「…さぁな…」

俺の後ろのルーシッドの、更に後ろからやって来た六番隊隊長のリーヴァが。

会議室の中のオルタンスを見て、びっくりして足を止めた。

見る者見る者をビビらせる男。それがオルタンス。

…冗談じゃねぇぞ、この野郎。

傍迷惑にも程がある。

「おい、オルタンス。いい加減にしろ」

「…♪♪♪〜」 

駄目だ。ヘッドホンで爆音で音楽聴いているせいで、全然聞こえてない。

電車の中で音楽聴きながら通学する学生かよ、お前は。

良い歳した大人が。

「おい、こら!話を聞け。何聴いてんださっきから」

「…ん?どうした、アドルファスか」

オルタンスはようやく俺達に気づいたらしく、再生していたウォークマンを一時停止。

やっとヘッドホンを外した。

「悪いな、ノリノリのところ」

「あぁ、ノリノリだった。先週配信が始まったばかりの新曲なんだ。やはり『frontier』は良いな」

あー、はいはいそうですか。

畜生。今の嫌味のつもりだったんだが?

ド天然には、嫌味も通用しない。

「お前な。これから会議が始まるんだぞ。分かってんだろうな」

「勿論分かってるぞ」

「お前がノリノリで音楽なんか聴いてたら、気持ち悪くて目に悪いからやめろ」

…え?上司に向かってそれはあんまりじゃないかって?

うるせぇ。気持ち悪いものは気持ち悪いんだよ。

「済まない。実は最近物凄く良いことがあってな」

あ?

「それがあまりに嬉しくて、つい気分が高揚してしまった」

「あっそ。良かったな」

「何なら、今すぐルーシッドの手を取って踊り出したいくらい嬉しい」

ルーシッドに大迷惑。

ほら見ろ。さっきからルーシッドが、「嘘だろ…」みたいな顔してるじゃないか。

大丈夫だ、ルーシッド。そんなことになったら、とりあえずオルタンスをぶん殴ってでも止めてやるから。