蕁麻疹を必死に堪えて、新しい名前を名乗ったというのに。

「…嘘よ。あなたの言うことは信じられない」

聞きました?

初対面の人間に、「お前の言うことは信じられない」なんて、面と向かって言います?

失礼にも程がある。

小姑じゃなかったら、皮肉の一つでも言ってやるところだったぞ。

「どうして、そう刺々しいんですか?俺は、あなたとも家族として仲良くしたいと…」

「嘘よ。あなたの言うことなんて信じられない」

「…何でそう思うんですか?」

俺、あなたに何かしました?

初対面なのに。

「あまりにも不自然過ぎる。妹のマリーフィアは、パーティーで会うなり、突然あなたの話ばかりするようになって…」

「…」

「それまで、結婚の話なんて一言も出たことはなかったのに、突然、結婚したい人がいるって言い出して…。トントン拍子で話が決まって」

まぁ、スピード電撃婚でしたからね。

その点では、怪しまれるのも無理ないですが。

マリーフィアがべた惚れだったんだから仕方ない。

「調べてみたら、案の定だったわ。元貴族というだけでも怪しいのに、マフィアと関わりがあるなんて…」

「…その辺りの事情については、マリーフィアさんから聞きませんでしたか?」

「聞いたわ。でも、怪し過ぎる。滅多なことがない限り、貴族の家から追い出されるなんて有り得ないもの」

その「有り得ない」ことが、実際に起きたんですけどね。

俺は確かに、マリーフィアに色々と嘘をついているが。

貴族をクビにされたという一点は、間違ったことは言ってないぞ。

「事情があったんです。俺にはどうしようも出来ない事情が…」

「その上、マフィアのもとで働いていたなんて」

「それは…事実ですが、望んでのことではありません」

俺は、わざと沈鬱な表情を見せた。

「あなただって分かるでしょう?貴族権を剥奪された俺に、真っ当に生活することは容易ではなかった。後ろ暗いことがあると分かっていても、マフィアのもとで働くしかなかったんです」

あくまで、他に選択肢がなかったのだとアピール。

あながち間違ってはいませんしね。

あの時…ウィスタリア家を追い出された俺に、真っ当に、陽の光を浴びる場所で生きていくという選択肢なんてなかった。

ただ違うのは、俺は渋々、マフィアのもとで働くことを選んだのではなく。

自ら望んで、闇の中に身を投じたのだ。

「だから…マリーフィアさんの口添えのお陰で、貴族の家に戻してもらって…。今はこうして、カミーリア家の一員にしてもらった。マリーフィアさんには、感謝してもしきれません」

「…」

「大恩あるマリーフィアさんと、心優しいカミーリア家の皆さんに、恩返しがしたいと思ってるんです。仲良くしたいと思ってるんですよ。…メリーディアさん、あなたとも」

我ながら白々しい言葉だが、身の潔白を主張しておくことは大事だ。

疚しいことなど何もないのだと、はっきりさせておかなければ。

「信用…してもらえませんか?俺のこと…」

「…無理よ。あなたなんて信用出来ない」

メリーディアはきっぱりとそう言った。

きっつ。