The previous night of the world revolution8~F.D.~

帝都から長距離バスを乗り継ぎ、半日かけてようやく辿り着いた、秘境の里跡地。

来るだけでも大変なこの場所に、マリーフィアは当然、初めて来たようで。

「うっ…。何だか、肌寒いですわね…」

バスを降りるなり、マリーフィアは寒さを訴えた。

確かに。帝都より気温が低いみたいですね。

しかし、そこはルアリスも抜かりない。

「標高が高いので、この地方は帝都より寒いんです。ジャケットを貸し出してるので、良かったらどうぞ」

気が利くじゃないか。

ルアリスは、ダサい緑色のジャケットをマリーフィアに差し出した。

貴族であるマリーフィアは、その安っぽいジャケットを見て、何か言いたそうな顔をしたが。

背に腹は代えられないと思ったのか、不満げにジャケットに袖を通した。

「ルレイア殿…いえ、ルナニア殿も良かったら、どうぞ」

「俺は結構ですよ」

この程度の寒さ、なんということもない。

ちなみにルアリスには、俺のことはルレイアではなく、ルナニアと呼ぶように申し付けた。

マリーフィアにはルナニア呼びで通してるので、それに合わせて欲しいと頼んだ訳だ。

「そうですか。それじゃ、早速…。この辺りが、かつて箱庭帝国で、秘境の里と呼ばれていた場所なんですが…」

「な…何だか、変わった造りの小屋ですわね…」

マリーフィアは、里の跡地一帯に点在する、藁葺き屋根の小さな小屋を興味深そうに眺めていた。

「これは家畜小屋かしら。でも、こんなに小さくて家畜を育てられるのかしら…。あ、それともこれはただの物置なの?」

「あ、いえ。これは家畜小屋でも物置でもなくて、人の住む家ですよ」

「え、家…!?」

…何処からどう見ても家だと思いますけど。

何故、これを家畜小屋や物置だと思った?

「こ、これが家…なんですの?ここに、人が住むんですの?」

「はい、そうですが…」

「…」

マリーフィアの顔を見れば分かる。

こんなちっぽけな、狭い小屋に人が住むなんて、と思っているんだろう。

子供時代をスラム街で過ごしたアイズやアリューシャにとっては、こんな小さな小屋でも豪邸に見えるだろうに。

生まれながらに、帝都の高級住宅街にある立派な屋敷で暮らしてきたマリーフィアにとっては。

こんな小さな小屋なんて、ペットの犬小屋以下なのだろう。

ご立派なお生まれだこと。

ルアリスは、祖国の文化を侮辱されたようで内心思うところはあるだろうが。

しかし、顔色一つ変えず、隠すことなくこう答えた。

「少し前までは、箱庭帝国ではこのような家が一般的だったんですよ。帝都では都市化が進んでいますが、地方では未だにこんな小屋に住んでいる人々もいるんです」

「そ、そうなんですの…」

「電気も水道も通ってないので、灯りは蝋燭で、水は井戸や川から汲んでくることもあるんです」

「…」

そんな前時代的な生活、マリーフィアには想像もつかないんでしょうね。

有り得ないとでも言いたそうに、目を白黒させている。

蝶よ花よと育てられたお嬢様には、少々刺激が強かったか?