まるでわたしを気遣うように、ゆっくりとした足取りで藍くんが歩き出す。
「お、重くない?」
「全然」
「重かったら言ってね……! すぐ降りるから!」
「だから大丈夫だって」
言い合っていると、ようやくいつものペースを取り戻してきた。
発情も徐々に収まっていくのがわかる。
ほっぺを藍くんの背中にくっつけると、ほのかなムスクの甘い香りが鼻をつき、心臓の音が聞こえてくる。
とくとくと控えめに鳴る心臓の音を聞いていると、自分の心が凪いでいくのがわかる。
藍くんに触れて、こんなにも安心するのは初めてだった。
この温もりにすべてを委ねてもいいとさえ思った。

