【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない


藍くんの声の下にはぞっとするようなひどく冷たいものが潜んでいる。

漆黒の瞳に光はない。


藍くんは男の人の髪をいきなり掴み、そしてぐいっと引き寄せた。


「その子に触った手を今すぐ折ってやろうか」


本当に怒った人は、声を荒らげるでもなくこんなに冷たい声を放つのだと、初めて知った。


ただならぬ怒気に、さっきまで我を忘れていた男の人も気づいたのだろう。

怖気づいたように、一気にさっきまでの薄ら笑いが姿を消す。


「あ、いや、これはその冗談で」

「ああ? 冗談ならこの子に触れていいと思ってんのか」


藍くんは中学生の頃、有名な不良だったと噂で聞いたことがある。

"冷血無慈悲な悪魔"だと。


いつもへらへら笑っている藍くんの姿からは、そんなの想像もできなくて、作り話だったのだと思っていた。

けれど、禍々しいほどのオーラを纏う藍くんの姿を見ては、否定のしようがなかった。