「い、急いでるので……っ」
「はは、震えてる。可愛いね、君。ちょっとだけ味見をさせてくれないかな」
「ぃ、や……」
今はもう、降りかかってくる声のすべてが、恐怖を煽るそれでしかなくて。
最悪だ。最悪だ。
やっぱり"特別体質"なんて最悪だ。
すべての力を振り絞って、掴んでくる手を振り払う。
そして全力で路地を駆けだした。
「おい、逃げるなって!」
暗闇の中、怒声と足音が追いかけてくる。
もうなにも考える余裕もなくて、わたしは廃ビルの物陰に駆け込むと、そこにしゃがんで隠れる。けれど。
「痛っ……」
足首に走る鈍い痛みに、わたしは思わず顔をしかめた。

