なんてことを失念していたんだろう。
ショックのあまり、その場に膝から崩れ落ちそうになる。
せっかく一生懸命作ったのに……!
ぱりんと音をたてて、神崎くんの爽やかスマイルがまっぷたつに割れる。
じゃあこのカップケーキは、自分で食べるしかないよね……。
しょぼんと項垂れ、教室に戻ろうとした時。
『由瑠』
砂糖よりも甘ったるいあの声が、耳の奥で再生された。
……そういえば、藍くんって甘いもの好きかなぁ。
手の中の袋に入ったカップケーキを見つめる。
……そう、これはあくまでもったいないから。
藍くんにあげたくてあげるわけではないんだ。
自分にそう言い聞かせているうちに、わたしの足は藍くんを探すために動き出していた。

