「それに違うよ! このカップケーキはもちろん推しに捧げるんだよ……!」
胸を張ってそう言い切る。
わたしの推し、それは同級生の神崎朔くんだ。
爽やかで容姿端麗、成績優秀。
同性異性関係なく生徒からの支持が熱く、生徒会副会長を務めている。
そんな神崎くんはまるで昔憧れた絵本の中の王子様のようで、こっそり神崎くんを推しているのだ。
違うクラスだから話したこともないし、きっとわたしのことなんて神崎くんは知らないだろうけど、遠くからこっそり見て拝んでいる。
「ゆるるん、神崎くんのことほんとに好きだよねぇ」
「だってあんな完璧な男の子、見たことないもん……!」
女たらしでクズなどこかのだれかとは大違いなんだから。
「ふぅん」
なぜかあんまり楽しくなさそうな顔をして、瑛麻ちゃんが唇を突き出す。
作ったカップケーキは、恥ずかしいから匿名でこっそり神崎くんの下駄箱に入れておく予定。
わたしの手作りを推しに食べてもらえたら嬉しい。
そう思うと、生地を混ぜる手にも不思議と力がこもった。

